PPP的関心【小規模商業集積による賑わい創出@旭川視察記録】
先日9月2日から3日にかけて旭川、美瑛、江別、札幌を周って注目の施設を見てきました。廃業後放置されていたスーパーの建物と跡地を再生した交流施設や地元大手企業の大型社宅跡地の再開発商業施設も見て回りましたが、今回のPPP的関心では「Asahikawa Harete」という施設の背景や取り組み方から考えたことを書きます。
*写真は当日撮影した旭川HARETEの夕景です。なかなかな賑わいでした。
今回の気づき。
大きな「ウォーカブル」とは違う。「ぶらり」が生み出す賑わい
今回の視察に回った各地で出会った人からの言葉でとても印象深かった会話があったで、まず初めに記しておこうと思います。
「日本には、すでに古くから” 賑わい創出の原理 ”が理解され実践されているはずなのに、昨今、いまさら賑わい創出の「方法論」が殊更にテーマアップされているのは不思議に感じる」というお話を聞きました。
先達が残した賑わい創出の原理と実践は全国各地の寺社仏閣の「門前町」や「参道の商店街」にあるではないか、そこには「ぶらり歩く」ことで生じる賑わいがあり、つまりは目的地と移動手段の着地を少しだけ引き離すことでその「間を歩く」必然を生じさせるという解法が示されているではないか、というお話をされていました。
なるほど。確かに参道や門前町を歩いているとそこにあるお店のいろいろなものが目に入り、時に思わず手に取ってしまう経験は少なからずあります。いわゆる「ぶらつく」という経験です。
某氏の会話にはさらに続きがあり「最近の商業施設を例にとっても駐車場の目の前にドーンと大きな建物があり、訪れる人々は車と建物を往復するだけで”ぶらり"は存在せず、目的地(建物)と着地(駐車場)が間隔もなく存在する” 建物の中に囲い込む ”構造」で、それは賑わいとは言い切れないような気がするとも話されていました。
ちなみに。ウォーカブルが示しているものとの違いを考える
国土交通省による「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりという施策があります。居心地の良くなる歩きたくなる≒「ウォーカブル」と称され、その推進とは「街路空間を車中心から”人中心”の空間へと再構築し、沿道と路上を一体的に使って、人々が集い憩い多様な活動を繰り広げられる場へとしていく取組」とされています。そもそも「賑わい」というものがどのような状況を指すかも違っていると思いますが、「集い憩い多様な活動を繰り広げられる場を作る」ことと、ぶらりとできる空間を創ることではニュアンスの違いも若干ありそうです。
冒頭の話は、道を滞留できるとか歩く以外の使い方ができる場所を取り戻すといった「広い場所」のイメージというよりは、まちなかにある「路地裏」とか「小路」みたいなちょっと覗き込んだり入り込んだりして面白い、興味がそそられる「狭い空間」を指している、そんな違いかもしれません。
ということで、今回はちょっと覗き込んだり入り込んだりして面白い、興味がそそられる狭い空間の居心地の良さや賑わい創出の効果を「体験」を通じて理解できた視察でもありました。
新しい路地のイメージ:Asahikawa Hareteとは
ウォーカブル先進地?だった旭川買物公園に登場したHARETE
旭川買物公園(旭川平和通買物公園)は、日本で初めて(1972年)恒久的な歩行者専用道路として整備された「道路」です。街の中心である旭川駅前から8条通に至るまでの約1kmの空間です。
*写真は6条、7条あたりの「朝の風景」を筆者撮影。休日の朝ということで人通りは「たまたま」少ない感じです。
ある意味で「大きなウォーカブルエリア(恒久的歩行者専用道路)」が整備された場所ですが、時を経て駅や郊外の再開発により新たな商業施設や娯楽施設ができたことで、以前から目立ち始めていた空き店舗や空き地の増加がさらに進み、その活力を失うきっかけとなったそうです。
そもそも全体として人口減少や高齢化の影響があったとしても、もしも既存の街中に「そこにしかない」サービス提供が更新され続けていれば、たとえ周辺に新たな施設ができたとしても人流の減少ダメージは低減できる可能性もあると思います。同じサービスや同じ商材が街中でも郊外でも駅でも手に入るのであれば、顧客の取り合いになるのは必然で人流の減少は起こるべくして起こった状況とも言えます。
そんな状況の中で、登場したのがAsahikawa Hareteです。
背景(運営会社が旭川出身の杉村氏の会社であるなど)はこれまでの報道や発信に任せるとして、この施設の開発に関係した東洋大PPPスクールのOBにご案内いただいた際に感じたポイントは「複数の社会課題の解決」を目指す施設であることがこの施設の本当の価値だ、という点です。
複数の社会課題を同時に解決する場所を目指す
地域課題として、空洞化仕掛けている中心市街地・買物公園(通り)の旭川市民の往来の回復、動物園をはじめ周辺観光地を回る拠点である旭川の街を来街者に楽しんでもらう場所の創造、そして旭川地域の経済活動に貢献する仕事を作り出す(起業)の機会の提供など、ひょっとすると他の地域やまちでも抱えている複数の地域課題に対する答え方の一つだと思いました。
具体的には
■買物公園に面した、駅から10分ほど(500m程度)に立地していることで そこを訪れた後に周辺エリアへの「ぶらり」が続く
■地域(周辺を含む)食材を用いた飲食サービスの提供で、来街者に地域を知ってもらい、現地に行ってみたくなるという気持ちを高める
■一般的なお店スペースの賃貸借に加え、運営者(ここはれて社)がリスクをとって設備等を準備して出店者は極小の費用で出店が可能になる出店募集の導入。加えて一定以上の業績を残した出店者の市街地への本格出店の機会を支援するメニューも備えられている
など、地域課題の何を解決したいのか?から逆算した展開がされている点に注目しました。
さらに大事なポイントは、社会課題の解決をする施設だからといって不動産投資(商業施設開発)事業としての経済合理性も踏まえられている点です。詳しくは書きませんが、こっそり教えてもらった想定利回りは決して低くないと思いました。また、それを実現するためにテナントと交わす撤退ルール設定も運営者にもテナントにも必要かつ現実的な業績水準となっている点も絶妙だと思いました。
当たり前に思われますが、ともすると社会貢献という言葉が混じった瞬間に儲けるのは?となる論調もありがちな中、きちんと適正な利益を確保するのは次への投資機会を逃さない(実際に、旭川以外のエリアへのHARETE展開を検討されているそうです)ためにも重要です。
PPP的関心というタイトルなのに単純に民間ビジネスの話じゃん、と思った方もいるかもしれませんが、民間が自らのビジネスで地域社会課題の解決に向けた取り組みを行うことは「民間主導の公民連携」の姿、あり方の一つだと思います。
最後に。
慌ただしい視察日程に丁寧に対応いただいたOBのSさんはじめ、HARETEで出会ってよくしていただいた皆さんに感謝します。