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PPP的関心【「自治体のスポーツ施設を「助成・補助」から「投資」対象に」を読んで】

担当する講義の中では、地域活性化を目論む公民連携事業では「民間が主導して」行うことを前提に話をしています。それには色々な意味があります。一つには公的サービス提供「事業」の持続可能性を高めるためには、その事業で利益を出し、得た利益を再投資することで事業継続を可能にする必要があると考えているからです。
ちょうどそのような講義をした日に偶然読んだ『自治体のスポーツ施設を「助成・補助」から「投資」対象に』という寄稿記事が、とてもしっくりときました。ということで今回は記事を読んで…という主題で書いてみます。
*写真は2018年に訪問したシドニー五輪の跡地(民間が維持管理・再生を担っているレガシーパーク)の様子。

経済波及効果=事業費のリターンではない

記事の中でまず目に飛び込んできた言葉が「経済波及効果=事業費のリターンではない」です。寄稿には

スポーツイベントやスポーツ施設に関する経済的な側面は、“支出側”の「建設費」や「運営費」もしくは“収入側”の「経済効果」といった一方向からの数字によって語られることがほとんどです。ところが、「事業費の総額より経済波及効果が大きいからやってよかったよね」と言われても納得感のある人は少ないでしょう。(中略)
だからといって「スポーツ事業を“投資”と“リターン”という視点で評価しなくてよいのか?」というのが本稿の問題提起です。

寄稿された記事より抜粋

民間の事業になぞらえれば、投資した以上に「売上げ」の見込みがあるからそれで良いと言っているようなもので、投資回収の原資となる「利益(付加価値)」に係る言及がないということにつながる指摘です。納得感がないというのももっともなことだと思います。

地域付加価値創造分析の自治体事業への活用

「整備費などを負担する自治体(住民)を出資者とみなし、事業を実施したことによるリターンを直接的に評価する方法はないのか?という漠然とした問題意識」に対して、記事では地域付加価値創造分析を用いて実施事業により生じたリターンを評価して、問題を解こうとする試みについて書かれています。

地域付加価値創造分析は「雇用者の可処分所得」「事業者の税引後利益」「地方税収」の合計であり、地域の収益を直接的に算出することができます。

寄稿された記事より抜粋

事業に伴う業務を地域に内製化すれば地域経済循環がおきて経済的な効果が高まる。これは当たり前のことです。分析しなくても分かります。それ(≒経済的な効果 )を定量化することで様々な活用可能性が見えてきます。
地域付加価値創造分析は、事業着手前の実施判断、事業期間中の事業改善、事業終了後の評価など、事業の様々なフェーズにおいて活用することが可能です。

寄稿された記事より抜粋

この手法では重要な前提が置かれていると思います。それはスポーツ施設があることで「地域内で生じる経済効果」を見る、つまり自治体にとって地域の活性化(ヒト・モノ・カネの規模の拡大や頻度の上昇など)につながっているかを重視している点です。
寄稿の中でも指摘されている通り、仮に施設整備の契機が国際的あるいは全国的なイベントのためで、整備の経済合理性の評価が地域以外を含めた全体的な経済波及効果においてプラスの評価を受けたとしても、整備後には施設が残る場所、そして維持管理を引き受ける行政にとって施設が稼げない(使えない)のでは維持すらできず、将来的には「負動産」にもなりかねません。
「地域内にどれほど稼ぎを生んだか」を精緻に具体に見る必要があるという指摘には全く同感です。

地域付加価値創造分析とは

地域内の経済波及効果を分析するための「地域付加価値創造分析」について解説されている『入門 地域付加価値創造分析 ~再生可能エネルギーが促す地域経済循環~』も寄稿文章内で紹介されています。

地域付加価値創造分析は、主にドイツにおいて再生可能エネルギーの開発が地域にどの程度の経済効果を生むかを評価する手法として活用されています。
地域にもたらされる経済的な付加価値は、生産によって地域内に「新たに創出された購買能力」と表現されており、売り上げから中間投入を除いた額、つまり「雇用者の可処分所得」「事業者の税引後利益」「地方税収」の3つの合計として定義されています(諸富、2019)。

寄稿された記事より抜粋

助成・補助から投資へ。補助は何のためのお金か?

冒頭の繰り返しになりますが、事業を継続するために企業(企業活動)では「投資」の回収原資となる「利益(付加価値)」の獲得を注視し、得た利益から再投資をします。逆に言えば、利益が出ない事業は、顧客設定や顧客に対する提供価値の設計あるいは商品サービス提供のやり方などに問題があるということです。
公的サービス提供その際に事業自体から利益を獲得できていない、すなわち何らか取り組み方に問題アリと考えられることをそのままに、例えば公益性を理由に「助成や補助」を投入して利益を補填、事業継続を支援する自治体があります。
これでは補助を渡すことが可能な期間にはサービス提供を続けられますが、なくなればいずれサービス提供も不可能になります。これが公民連携事業をする際に補助金に頼らない、という意味です。起業の際に公的なお金を入れることでサービス提供の開始を早めるとか提供範囲を大きくするなどの目的がある場合もあると思います。ですが、過剰なランニングコストの補填的な注入では、税金を使って助成や補助をする効果(税の投入は税で回収する)は生まれません。

そのような基本的なことに改めて気づきをいただくとともに、再エネに関連する施策以外(今回の記事の例はスポーツ施設)でも「地域付加価値創造」の視点を用いることは興味深い視点でした。

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