尿道からウニ(日常診療)
我が泌尿器科診察室に入ってきたのは60歳前後の男性。
「ぜんぜぇ にざんにちぇまえかるぁ~」
うわっ!びっくりした~! 一瞬、頭の中にあるワープロが漢字交じりの文章に変換することができず、外国語かと思ったではないか。
しかしである。こんな時に「あんた、思い切り訛ってるねえ。何を言ってるかわからんわ」などと相手の言葉をけなすなど、医者として、それ以前に人間として失格である。相手が外国の方なら例のごとくたちまちパニックに陥るのであるが、訛ってはいてもそこは日本人。頭のワープロを即座に「訛りモード」に切り替える。
で、もう一度プレイバック・・(先生、二、三日前からだな、きっと)
「おじっごするどぎぃにぃ」 ( えーと、おしっこする時に・・か? )
「ずんごくいでぇ~」 ( すごく・・いでぇ・・痛い・・? )
「おしっこする時に痛いのですね。他に症状はありますか?」
反論しないところを見ると、この変換は概ね正しいのであろう。
「のごっだがんじがずるぅじ~」
( のごった・・濁った・・か? いや、残った・・だな。すなわち残尿感もあるってことか )
人間、いかなる状況にも慣れることができると言ったのは、あのアウシュビッツを生き残った哲学者フランクルであるが、私の頭も次第にこのとてつもなく聞き取りにくい言葉に慣れて、自動変換モードに切り替わってくるから不思議である。
「ぞれどぉ」 ( それと )
「げざがらぁ」 ( 今朝から )
「にょうろうがぁ・・ ( 尿道が )・・いいペースになってきたぞ
「はれでぇ」 ( 腫れてるのか、それは大変だ )
「ざきがらぁ」 ( 尿道の先から・・ )
「うにがでた」 ( ・・・え? )
私も一応医者のはしくれである。この方が尿道から排膿していると訴えたのであろうとは理解したが、同時に私の頭には、この方のちん○○の先からウニがころころと出てくる様子がありありと浮かんでしまったのである。
「それは・・さぞかし痛かったでしょう」