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犬がすごいことに(日常診療)

 認知症というのは、意外に診断がしにくい・・というか、こちらに認知症を疑うアンテナがないと、見逃すことの方が多い疾患なのである。

 もちろん、周囲が「おかしいぞ」と思うような行動や言動が頻回となると診断はあまり困難ではないが、周囲に迷惑を及ぼさないような生活をしている方は、意外に認知症とは気づかれにくい。

 特に医師は、診療所という特別な環境で短時間しかその方と接する機会がないため、相当進行した認知症でも見逃してしまうことが少なくない。

 高血圧や前立腺肥大症などで何年も私の診療所に通っているじいちゃんに認知症の疑いがあるのではとの報告が入った。

 ヘルパーさんに連れられて診察室に入ったその方を見ても、すこし反応が鈍いような気がするだけで、特別、普段と変わった様子はない。

 認知症の疑いがある旨の報告が入っているので、念のために記憶力のテストをやってみると、これが相当重度の認知症。

 ヘルパーさんに「どうして認知症を疑ったの?」と尋ねてみると、薬がちゃんと飲めていないようだからとの答えが返ってきた。

 ちゃんと薬を飲んでいると思っているのは医者ばかりなり。
 よく確認すると、相当以前よりまともな服薬ができていなかったそうである。どうりで、最近ちょっと調子が悪いはずである。  

 食事量も充分ではないようで、高カロリーの医療用の栄養ドリンク(経腸栄養剤)を処方していたのであるが、それにもかかわらず最近、痩せが目立つ。

「あの・・もしかしてドリンクもちゃんと飲んでなかったの?」

 じいちゃんは平然と「いえ、飲んでます」

「飲んでるのなら、そんなに痩せてくることはないと思うけど・・」

 そう言いながら、後にいるヘルパーさんに「ほんとのところはどうなの?」と尋ねると、

「先生、栄養ドリンクを飲んでいるのは飼ってる犬です。おかげで犬はパンパンに太ってすごいことになってます」

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