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何を飲んだの?(日常診療)
週に一度は診療所に来られるおじさん。
どう見ても大したことはないのに「あそこが痛い、ここがだるい」と言っては受診する。
思うに、仕事がちょっと辛くなったら我が診療所に逃げ込むだけの話なのであろう。
こんな病気?に健康保険を使っちゃっていいのだろうか?
最近、私の方もこのおじさんの対応に飽きてきて、今までのようにはいはいと愛想良く対応できなくなってきた。
「頭が痛い」「足がだるい」等とと訴えても「それって、いつもの事でしょ」と言って取り合わない。もちろん薬も出さない。
そうすると話が続いていかないので少々お困りのおじさんは、さすればとばかりにいろいろと別の症状を訴えるのである。
いくら身体の部分がたくさんあると言っても、次々と訴える症状を「それは大したことないでしょ」「それくらいの症状はみんなありますよ」と言って一刀両断に退けられると、だんだんと訴える症状が底をついて来る。
ちょうど「親類に不幸ごとがありまして」と遅刻の言い訳にしていた人の親戚が、ついに全員が死に絶えたようなものである・・って、ちょっと違うか。
本日も「ちょっとしんどくなって来たので・・」とお見えになった。
例によっていつもの症状を訴える、それを退けるのやりとりが繰り返され、う~んとばかりに考えたその方、横腹が妙に痛むと訴えられた。
ほう、それは初めての症状だな。
「何?今度は横腹も痛むんですか? そんなにあちこちが悪いのなら、ひょっとするとこの診療所では手に負えないかもしれませんね」
それはおじさんにとっては困るのである。
他の診療所が私と同じく、さして病気とも思えない症状を訴えて受診する度に相手をしてくれるとは限らない。
行き場所を失ってしまうと、仕事も休めなくなるかもしれないし。
「いや、痛かったんだけど、あれを飲んだらすぐに治った」
「そりゃよかったですね。で、あれって何?」
「あれ・・ほら、テレビで宣伝してて、薬局で売ってるドリンク・・えーと」
こんなやりとり、前に別の人でやった記憶があるなあ。
で、何を飲んだんだよ。
しばらくう~んと考えた後、「えーと、お、オロナイン!」
口の中がどうなってもしらんぞ。