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SOML ② Take care in your dreaming (feat.Denzel curry, Tricky & Sampa the Great) - The Avalanches

 みなさんは、人生をかけて聴き込んでいくような曲に出会ったことはあるでしょうか。音楽鑑賞を趣味としていると、度々そのような曲に出会うことがあると思います。出会い方はまちまちで、街中で流れている曲であったり、初めはそこまで好きではなかった曲がいつのまにか、かけがえのない曲になっていくこともあります。出会い方はどうであれ、その人の人生を象徴する曲、つまり「Songs of my life」(SOML)です。

 アバランチ―ズのこの曲は間違いなくSOMLの一つです。今でもこの曲との出会いを鮮明に思い出すことができます。私には音楽好きになるきっかけをくれた兄がいるのですが、その兄から紹介されました。彼とちょうどデンゼルカリーの好きなアルバムや好きな曲について話していました。その時、私が好きな曲の一つとして「SPEEDBOAD」を挙げたとき、続く形で紹介され、まだまだニワカだった私とこの曲は出会うことになりるのです。初めからかなり好きな曲でしたが一緒に年を取るたびに大切な曲の一つになっていきました。この曲の好きなところは語り尽くせないですが、以下の三つに絞ってあげていきたいと思います。

①デンゼルカリーの「カマシ」
②オルタナティブアーティストならではの綺麗なビート
③トリッキーのおぼろげなフック

①デンゼルカリーの「カマシ」
 デンゼルカリーは優れたラッパーであることは周知の事実で、そこに異議を唱える人は少ないでしょう。私も彼の世代ドンピシャであり幾度となくそのラップで圧倒されてきました。彼のラップは滑らかで聴きやすい、老若男女が好きなお手本のラップです(ちょっとナード感強めだけど゙・・・)。この曲でも彼の良さは存分に発揮されているどころか、彼史上最高の「カマシ」かもしれません。
 「カマシ」とは何でしょうか。人には人の「カマシ」の基準があるとは思いますが、この曲の彼は間違いなくカマシているでしょう。全体を通して早く滑らかなフロウでラップしていますが、この早口ラップは見せつけるような早口ラップではなく、ラップしたいことが詰まっているからこその早口ラップです。見せつけるような早口ラップとは、例えるなら「Godzilla」のエミネムみたいな、すごいけど全然かっこよくないラップみたいなヤツです(エミネムは好きですが、Godzillaは全然好きじゃないです。実際、彼のベストソングとしてGodzillaを挙げる人はいないでしょう)。なぜ、見せつけるような早口ラップがかっこよくないか説明したいところですがそっとしておいて、逆にこの曲のデンゼルカリーの何がかっこいのかを語っていきましょう。
 トリッキーのフックから、デンゼルカリーの鬼気迫るラップが始まります。彼ならではのフロウではありながら、「カマシ」特有の、感情が乗りに乗った、ラップしている口から1m先まで唾が飛んでいきそうな逼迫したものがあります。私は彼のこのラップをただ音源を通して聴いているだけなのですが、口から飛んだ唾が直接顔にかかっているような、そんな臨場感があります。ラップファンでもラップに興味ない人でも彼の情熱を簡単に感じ取れるでしょう。このパッションがこの曲が名曲である1番おおきな理由です。
 リリックにも少しふれておきます。この曲では彼が「Denzel Curry」というペルソナを被る動機、そしてその軌跡を振り返る内容となっています。2011年、デンゼルカリーの音楽キャリアは彼が現実世界の幸せや転機をあきらめ、自殺を試みたところからスタートしました。ジョーカーの冷蔵庫のシーンのように、彼本来の人格と引き換えにデンゼルカリーという別人格の形成です。そこから、彼のキャリアの中での出会いや別れ、EPやアルバムの成功やファンベースの形成を彼は歌います。彼はさまざまな痛みを伴いながら叶いそうにもなかった夢を追い越し、突き進んでいくのです。

②オルタナティブアーティストならではの綺麗なビート
 済んだ川のような、美しいビートです。デンゼルカリーのヴァースがやばすぎて彼名義の曲だと錯覚してしまいそうになりますが、これはアバランチ―ズの曲であり、トラックに意識を傾けるとオルタナティブアーティストならではの美しいトラックになっていることがわかります。タイトルと同じように夢のように朧気で、デンゼルカリーとサンパザグレイトのぱっきりとした「生感」が強いラップといい意味で対極です。この対比がいいですよね。
 朧気な雰囲気の中で、様々な音が組み合わさっていることがわかります。この複雑なトラックの中で私が大事だと感じるのは、綺麗なピアノとコーラスです。ピアノの澄んだメロディラインで澄んだ水っぽさが出ているのとともに、バックで流れている淡いコーラスが独特の質感に寄与していると思います。また、全体のごちゃごちゃさから夢の意味不明さ、不安定さを感じとることができるところも好きです。


③トリッキーのおぼろげなフック
 トリッキーのフックもこの曲の大事なエッセンスでしょう。朧気できれいな川のようなトラックと、デンゼルカリーとサンパザグレイトの「生感」が強いラップをつなぐ役割をしている欠かせないピースです。彼のフックのおかげで曲全体にメリハリが生まれ、聴きやすい仕上がりになっています。

 いかかでしたでしょうか。長々と語ってきましたが私が勝手に感じ取ったものを勝手に表現しているので、音楽が詳しい方から怒られてしまうかもしれません。ですが、私のこの曲に対する愛情や情熱を少しでも感じ取っていただき、一人でも聴いていただく方が増えるのであれば幸いです。

Yamanba






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