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泥のようなエロビデオ

やあ。僕は少しスケベな小学5年生。
実はいま、ドスケベなアイテムを探しに田んぼ道を血眼になりながらコソコソと歩いている。

早速、雑草の影に泥に塗れたビデオを発見した。
「汚いなぁ」と思い、じいちゃんのパンツを摘むときと同じ要領で、ビデオを拾い上げ自転車のカゴに入れると足が取れる急いで公園まで向かった。

公園に到着し、他に知り合いがいない事を確認したら蛇口を捻ってビデオを洗い始める。
しかし、洗えども洗えども泥に塗れたビデオは徐々に小さくなっていく一方である。
そこである事を思い出し慌てて蛇口を捻り水を止めた。
「いけないいけない!これは泥のエロビデオだ!」
と心の中で呟き胸を躍らせそのまま帰宅した。
しかし、泥のエロビデオを手に入れられるとは運が良い。
泥のエロビデオは普通のエロビデオより相当エロいらしい。

我が家の唯一のテレビがあるリビングへ手を洗わずに一直線で向かう。
まずは時刻を確認する。いまは午後の4時40分。
幸い母親が帰ってくるのには、20分ほど時間があった。
僕の20分の戦いが幕を開ける。

全身が心臓のように脈を打つほど興奮しながら、泥のエロビデオをビデオデッキに捩じ込んでいく。

「ザリザリ…ズズズズズズ……ッ」

ビデオデッキの挿入口についた泥もこぼれないように全て無理やり入れ切った。
そしてついに再生ボタンを押す時がきた。
興奮が高まりすぎておかしくなってきて、指が震える。再生すると一体どうなるのだろう…?

「ザザザ…….ガガ!ズィーツ!ズズズ…….ガガ!ズィーツ!トゥトゥトゥトゥトゥトゥ……」
ボタンを押すととんでもない異音がリビングに鳴り渡始めた。

「シーン…」

しばらくするとビデオデッキの動きが完全に止まってしまった。
もしかしてビデオデッキを壊してしまったのではないか?
そう思った途端、頭から血の気がサーっと引いていく。
そして小学5年生にもなって誰にでもわかるような嘘の都市伝説を信じ込み、性的興奮のあまりビデオデッキに泥塗れのエロビデオを突っ込こむ自分が心底恥ずかしく目に涙が浮かびかける。
両親への申し訳なさを噛み締つつ、PSPの購入資金として貯めていた貯金をビデオデッキの弁償代として差し出す覚悟を決めかけたその時だった。

「指入れて」
確かに女の人の声が聞こえた。

するとブラウン管のテレビがひとりでに点き、画面左上にビデオ2と緑色の文字で表示された。
画面にはかろうじてカメラを見つめる女性らしき形がなんとなく確認できるばかりで、かなり映像が荒れており、あらゆる種類の砂嵐のようなノイズが吹き乱れ時々カラーだったり白黒だったり色までも激しく切り替わり続けていて顔ははっきりとは見えない。
そして泥のエロビデオだからからか全体的に茶色がかっている。

「指入れてよ」
画面越しに女性がおねだりしてくる。

「キュオーんキュオーん」

そしてビデオデッキが再び動き始め扇情的な音を立て始める。
僕は壊れていなかったことに安堵しつつ、ビデオデッキの挿入口に指を差し込んでみた。

「キュキュキュキュキュキュキュキュキュオーんオーん」

喘ぎ声はビデオデッキの動作音で再現するのかよと落胆しつつも、中はうねり続ける生温い泥でぎっしりになっており一気に興奮を取り戻した。
まだ僕はそういったことは経験していないけど、かなりリアルな方だと思う。

「キュキュキュキュキュキュキュキュキュオーんオーん」
「キュキュキュキュキュキュキュキュキュオーんオーん」
うねりが激しくなっていく。

「舐めて」

再び確かに声が聞こえた。さっきより少し余裕がなさそうな声がより僕を昂らせる。
早速ビデオデッキに顔を近づけていく。
さっきいた田んぼのような泥臭い匂いがしてくる。

入り口から泥が溢れ出している事に不思議と自信が湧いてくる。
さらに顔を近づける。
より泥臭さに加えて何だか酸っぱいような、それも柑橘系ではなく便所で嗅ぐようなアンモニア系の酸っぱさが鼻腔をチクチク刺激し始める。

「やるしかない」と気を振り一気にビデオデッキに顔を近づけた。
僕の急な動きに少し驚いたのか、入り口から泥が吹き出して顔にドバァとかかる。

「クッサw」
思わず反射的に発してしまった。

その瞬間うねるような音を立てていたビデオデッキが再びピタリと止まってしまった。
画面の中の女性は恥ずかしそうに俯いたままだ。

「あのー…」
謝ろうとした時に画面の中に女性は既に映っておらず、泥がビデオデッキから流れ出していた。

「またね」
溢れ出した泥はリビングから律儀に玄関を目指して這っていき、ドアの新聞受けから流れ出ていってしまった。

呆然としているところに入れ違いで母親が帰ってきて、泥まみれになった激臭を放つリビングについて問い詰められたことは言うまでもない。

次の日の朝、学校へ向かうために玄関を出ると昨日の泥のエロビデオが辿った跡が残っていた。
学校の方向とは反対に伸びていたものの辿らずにはいられなかった。
小走りで夢中になってエロビデオが通ったであろう跡を追う。
朝の新鮮な空気も相まってかそこに不純な動機はなく、前日の出来事を純粋に会って謝りたいという気持ちだった。

跡は昨日の田んぼの少し手前で切れてしまっていた。
「またね」と最後に聞こえた女性の声が頭の中で再生される。

元いた場所に戻ればまた会えると泥のエロビデオは思ってくれたのだろうか。
公園で泥を流さなければまた出会えたのだろうか。
今となっては全てはわからぬまま。

「けどやっぱり臭かったよなぁ」
僕は心にモヤを携えて学校へ向かった。


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