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This Is Not note#7『宇宙 日本 東京にこにこちゃん(後、和光)』

「東京にこにこちゃん(実は僕が最も偏愛する才能・萩田頌豊与が産み出す大馬鹿ドラマティックは最高)」『Didion03 演劇は面白い』所収「ヤバイ芝居とはなにか」10p

「結局、1番愛しているのは東京にこにこちゃんですかね」と答えると大体は怪訝な顔をされる。地蔵中毒じゃないんだ?盛夏火じゃないんだ?あんよはじょうず。じゃないんだ?排気口じゃ……いや、みんな大好きですよ「ヤバイ芝居たち」は。東京にこにこちゃんは何がヤバいんすか?とでも言いたげだが(気持ちはわからないでもない)その瞬間に彼や彼女は溜息をつく。「そりゃあヤバいすよね、名前が東京にこにこちゃんだもん」そおそお。それで売れようとしてんだからヤバいってか狂っているよね愛したくなるのさ。納得して頂けましたか?それなら少しお付き合いください。

2013年に東京に舞い戻ってきて最初に小田急沿線の小さな街に住んだ。夜逃げ同然だったので住みやすいけどなるべく安いとこ探したらそこになった。駅から遠いので半年くらいで帰宅の時はタクシーに乗っていた。お金あるのかないのか。駅の近くに「和光大学ポプリホール」という謎(でもなんでもない)の名称の建物があって定期的に落語会が開かれていたので、よく行った。和光大学そのものは見たこともない。謎だった。学生らしき人は駅前にいっぱいいた。今になって考えると東京にこにこちゃんや排気口やマグネットホテルの面々(後、新聞家か笑)とすれ違っていたのかもしれない。その頃の東京にこにこちゃんや排気口やマグネットホテルや新聞家はどうだったんだろ。そんな近くにいたのだから観たかった気もするし5年後のタイミングで観られて良かったのかもしれない。

そこに住んだ2年間で30年隔絶していた(とは言い過ぎで年1くらいは観ていた)東京の小劇場シーンを優秀なナビゲーターのお陰もあって殆どチェックできた。アゴラの会員でもあった笑。そして、飽きた。当然レベルは上がっている。でもそれだけじゃあねえ。なんかヤベえ匂いのする芝居って絶滅したのかねえ。その街にも飽きたので、高円寺に引っ越す。ここからの3年間は惰性で演劇を観て、呑み続ける。高円寺に住み続けることを決めた頃にTwitterを何故か始めて「ヤバイ芝居」になって地蔵中毒を初めて観た時に俺の心のジェイムス・ブラウンが叫ぶ「君は光を見たか!」心のエルウッドに叫んだ「ヤベえよ!あったよ!ヤバイ芝居だよ!」

と、浅井健一が「ベンジー」の由来を100万回は説明したような説明をしているが、今日はその先へ。地蔵中毒の次回公演を見ると『鼻雑技団 両頬ペチンペチン謝肉祭』とある。3劇団の合同公演らしい。おお。地蔵中毒が初期大人計画を思い出させるなら鼻雑技団は伝説の『悪人会議』を思い出させる。大人計画、村松利史プロデュース、パラノイア百貨店。凶々しい並びだ。地蔵中毒、東京にこにこちゃん、パブロ学級。おかしい並びだ。パブロ学級?東京にこにこちゃん?東京?にこにこちゃん?東京にこにこちゃんってどうなの?。3劇団の合体フライヤーもあった。東京にこにこちゃんは恋愛シュミレーションゲームがモティーフ。全くついていけない感じだ。俺の貧弱なTLに鼻雑技団関連のツイートが流れてくる。萩田のツイートが何かおかしい。小さな笑いにいきなりビッグマウスを挟んでくる。この人は相当に凄いのか相当にダメなのか。なんか八重歯もかわいいので凄いにベットしてみる。そして、鼻雑技団。心のエルウッドにまたも叫ぶ「大当たりだ!」100万ドルの札束が舞う。孤児院に届ける前に内容を説明すると主人公の江原(パジャマ。大好きな俳優とここで出会う)を巡る人生ループの物語なのだが、トップバッターのにこにこちゃんはフライヤーそのままに恋愛シュミレーションゲームネタの芝居で小さな笑いを連発した挙句に桜舞う中のキスシーンでいきなり素敵なクライマックスが最高潮に達する。滅茶苦茶に笑ったけど、またも心のジェイムス・ブラウンが叫ぶ「君は光を見たか!」見たよ、まぎれもない才能という光を。

これが今回の『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』の原型。

劇場内がどよめく中で(始まって30分なのに)物語はもう完膚なきまでに終わってしまった。どんな構成なんだ。どう続けるのかと思ったけど、ちゃんと続く(後に渋木のぼると大谷皿屋敷に萩田が怒られたことを知る。当たり前だ)。凄かった。すっかり興奮した俺は誰も見ていないTwitterで存分に騒いだ。

何を書いているんだ。「責任は萩田が取る。観てくれ」と連投した。だから誰も見ていないのよ。SNSの作法を知らないままにTwitterを始めた(パブリックだからと敬称は略していた)ので「萩田と荒々しく呼んでくる人」と御本人に軽く嗜められたのも良い思い出だよね。死んだのか、萩田か俺。

鼻雑技団が終わって間もなくオルギア視聴覚室で「魔女裁判」をネタにした短編を観る(にこにこちゃんだけでなく地蔵もパブロも出ていた。皆、元気だね)。観客席にアルミホイルで作った石つぶてが大量にバラ撒かれる。本編の中でタイミングが来たら舞台に向かって投げて欲しいのだという。観客参加型だ。寺山修司じゃん。タイミングが来たので投げてみたら数個しか飛ばないので失笑が飛ぶ。これはいけないと観客全員が持てるだけの石つぶてを持って投げては拾い拾っては投げていたら、終わった。萩田は「拍手が来ない!滑った!」と述懐していたが無理ですよ、手にはいっぱいの石つぶてなんだから。無意識に寺山修司なんかやるから。ほんと面白いな萩田は。

動画で『ドラゴンスープレックス』というコンテストで準優勝した『エレベーターガールの恋』という短編を観る。萩田本人が出演。この『エレベーターガールの恋』(『〜ガールの恋』は数本のシリーズがある。いつか『東京にこにこちゃんガールズコレクション』として全部を観たい)は傑作で10分ないくらいの(3分の時もある)ド短編なのに小さな笑いでリズムを刻んでブレイクの瞬間にいきなり素敵なクライマックスが来る高揚感が素晴らしい。ド短編でその流れって難しそうなのに「あれならいくらでも」書けるらしい。ほんとスゲーな萩田は。

で、2018年は終わる。すっかり東京めろめろちゃん。問題は本公演を観ていないことだ。観ていないのに推す。もはや持ちネタであるが、この頃は東京にこにこちゃんだけだ。だけにしろ。自信はあった。2019新作『ラブノイズ・イズ・ノット・デッド』が告知される。「ラブホテルのラブストーリー」らしい。不安しかない。

『ラブノイズ・イズ・ノット・デッド』もまた傑作だった(この舞台で青柳美希という素晴らしい俳優を認識する)。「ラブホテルの客を煽る為にラブノイズ(あえぎ声)を出力する『アエギ嬢』と従業員の恋」という贔屓目に見てもどうかしている大雑把なラブストーリーを小さな笑い(繰り返しなので省略)でも本当に本当に2人が抱き合って倒れこむ瞬間に客席は拍手したり泣いたり笑ったりガッツポーズ取ったりフラッシュモブみたいな様相を呈していた。もう大丈夫だ。迷わずに言える。東京にこにこちゃんの大馬鹿ドラマティックは最高。

ここまで読んで「面白いのは分かった。でも東京にこにこちゃんの何がヤバいの?」と冒頭に戻ってしまう方がいたら面倒くさいのだが萩田頌豊与本人がヤバいのはもう既成事実でいい?虚言気味の巨人だから信じない方がいいんだろうけど「両親の歪んだ教育で『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラストでも笑える」情緒らしい。とにかく変なとこで笑う。一部の小劇場でお馴染み本番殺しの萩田の大爆笑。更にどんなとこでも笑わせる。そこちゃんとした方が良くない?ってとこでも笑わせる。誰よりも自分が笑いたいとばかりに。そこに俺はヤバさと同時に親近感を持つ。生きるって辛いから笑っていないとやっていられない。笑って今日だけはやり過ごす。俺が演劇を観るのもそんな理由だ。最後の最後に負ける人生でも今日だけは引き分けにしたい。「自分のギャグで100人笑ったら人の100倍笑ったことになる。幸福だ。すげえ笑った」と言ったのは松尾スズキだったか。2020新作『ラストダンスは悲しいのはイヤッッ』(配信中)は真っ向からこのテーゼに挑んだ作品で今のところの最高傑作と評判が高い。

「肉親の死」をモティーフにそれでも笑わせようとする物語がたくさんの人の心を打ったのは「最後の最後は死ぬ」から「最後の最後は悲しいので笑えない」なら「去って行く者にはせめて笑ってもらう」為にはどうしたらいいかええい踊ってしまえという答えを出した(現実は死んだら生者が踊っているのは死者は見られないので、あの場面は生者の為にある。成立させた石井エリカや矢野杏子、hocotenの肉体性は特筆したい)ことだ。更に感動的なラストにも焼死したと思われた「悪役」(悪ではなく悪い役)のぐんぴぃが黒コゲで踊るというギャグを差し込んでくる執念。で、本質として「笑いは下に見られる」ことをわかっているのが、実はヤバい。笑いで下げるだけ下げておいて一気にクライマックスでエモーションを全開に上げる。東京にこにこちゃんの圧倒的多幸感の秘密はそこにある。ぐんぴぃが萩田を評した「中途半端な笑い」というのはディスりではない。笑いを「価値観の転倒」ではなく「感情値の転倒」に用いている。本来はナンセンスとかコメディとか乾いていないと火が着かないものを高湿度で爆発させる。そんなややこしい人はいないのである。登場人物たちが軒並みサイコパスなのにも理由はあるのだ

『ラストダンス』で次はブレイクか?!と噂された東京にこにこちゃんの新作はまさかの「鼻雑技団リメイク」だった。

コロナ禍で2回も中止に追い込まれる中で『さよならbyebye-バイプレイヤー』という傑作(しか作らないのよ、この人。演劇で使い古された「バックステージもの」を選ばれなかった人たちへのラブソングに仕上げた)を発表しながら名前を変えても『どッきん⭐︎』の上演を最後まで諦めなかった(座組への愛も大きいと思う)からには東京にこにこちゃんの最高傑作更新を狙っているのだろう。今年こそブレイクする気は満々なのだ。このままなら今日、開幕する。遂に下北沢で尾形悟の前説が聴ける。色んな意味で大丈夫なんだろうか。

少しと言って長々とお付き合い、どうもありがとう。ここまで読んで、どう思います?漠然としたヤバさと明確な才能だけでも感じ取れるでしょ?話全体のパースが狂っているでしょ?「売れたい」と公言して憚らない萩田頌豊与と信じて疑わない俺たちは狂っているのだろうか?多分、狂っているのだろう。

東京にこにこちゃんはあらゆる意味で巨大な「謎」だ。東京いや日本が小さく見えるくらいの。ベストサイズは宇宙。その謎は和光大学という謎多き場所で始まった。


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