矢場伊織

Twitter : @yabaiori

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リチャード・フライシャー『マンディンゴ』――鏡に入った亀裂

1.四つの象限   リチャード・フライシャー監督作『マンディンゴ』(1975)が二つの軸の交錯によって織り上げられていることは見易い。作品の舞台は奴隷制時代のアメリカ南部に据えられ、農園を営むウォーレンとハモンドのマックスウェル父子と彼らをとりまく人々の悲劇が描きだされている。二つの軸とは肌の色(白人/黒人)、性別(男/女)のことだ――登場人物はみな、この二軸の交錯からなる四象限のいずれかに割り当てられ、それぞれに相応しいとされる振る舞いの規範にあるいは従い、あるいは侵犯する

    • ジャック・ベッケル『モンパルナスの灯』――夢見るクローズ・アップ

      1. 誰を切り返すか?ジャック・ベッケル監督作『モンパルナスの灯』(1958)は冒頭、字幕による画家モディリアーニの簡単な伝記的紹介を挟んで、ジェラール・フィリップ演じるモディリアーニがカフェで男の肖像画を描くシーンで幕を開ける。より正確に言えば、カメラは初め緊張した様子のモデルの男の顔を捉え、続いて緩やかにパンしながら隣の男(妙なもんだな、とでも言いたげな顔つきの)を、続いて他の客たち、モディリアーニの連れである画商ズボロフスキー(ジェラール・セティ)と順に視界におさめてゆ

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