江戸時代中期の名宝「蜂須賀家の薬箪笥」:美と実用性が融合した逸品


徳島藩主蜂須賀家に伝わる薬箪笥が、このたび国の重要文化財に指定されました。この薬箪笥は、江戸時代中期に作られたもので、金の蒔絵が豪華に施されており、その緻密な技術と芸術性が高く評価されています。この記事では、この薬箪笥の特徴や背景、そして当時の文化的な文脈について詳しく解説します。

蜂須賀家の薬箪笥とは?

この薬箪笥は、蜂須賀家お抱えの蒔絵師である飯塚桃葉が手がけた作品です。外観は華やかな金の蒔絵で装飾されており、内部の蓋にはおよそ40センチ四方のスペースに、実に100種類もの薬草が描かれています。これらの薬草は、胃腸の健康を促進する蒼朮(そうじゅつ)など、当時の薬学的知識に基づいたものが含まれています。

精密で芸術的な蒔絵技法

薬箪笥の装飾に使用された蒔絵技法は、「飛び出し蒔絵」と呼ばれる高度な技術が使われています。この技法では、大きさの異なる金粉を漆の上に撒き、その後、金粉の表面積によって微妙に異なる輝きを引き出します。金と銀、漆の黒と白という限られた素材を巧みに組み合わせ、植物の色彩や質感を見事に表現しています。

また、花や葉の形状が驚くほど正確に描かれており、観察者にまるで図鑑を見ているかのような感覚を与えます。この緻密さは、単なる装飾品としてだけでなく、学術的資料としても価値が高いといえるでしょう。

薬箪笥に込められた背景と目的

この薬箪笥が作られた明和8年(1771年)は、隣藩である高松藩主松平頼恭(よりたか)が還暦を迎えた年でした。表側に記された「寿」の文字からも分かるように、この薬箪笥は頼恭への祝賀と感謝の気持ちを込めて制作されたと考えられています。

当時、大名たちの間では薬用植物に関する学問が注目を集めており、頼恭自身も7冊もの植物図譜を制作するなど、薬学や植物学に深い関心を持っていました。蜂須賀家の薬箪笥に描かれた薬草類の約9割が、この図譜に記載されている植物と一致していることから、両家の間で学術的交流が行われていたことがうかがえます。

文化財としての価値

この薬箪笥は、実用性と芸術性、そして当時の知識や文化的背景を併せ持った貴重な遺産です。一つの作品に込められた文化的意義は、蜂須賀家の高い美術への感性や、当時の学問的発展を象徴しています。

現在、この薬箪笥は東京・港区の美術館で展示されており、12月8日まで一般公開されています。現代の視点から見ても圧倒されるほどの技術の高さを、ぜひ間近で感じてみてはいかがでしょうか。



この機会に、江戸時代の美術と科学が融合した世界に触れてみてください。

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