「二曲一双」が紡ぐ、屏風のふしぎな世界~右隻と左隻が奏でる和の調べ~
屏風は「動く美術館」
屏風を見たことがありますか?その形や役割には、ただの装飾以上の意味が込められています。一枚の絵のように見えるその姿は、ジグザグに折りたたまれ、広げれば部屋を仕切り、閉じれば物語を宿す。屏風は、日本の空間を彩る「動く美術館」とも言える存在です。
今回は、そんな屏風の中でも特別な形「二曲一双」の魅力に迫り、右隻と左隻が織りなす和の調べを感じていきましょう。
二曲一双とは? ~2枚でひとつの物語~
「二曲一双」とは、2枚の屏風が対になったものを指します。この言葉の「二曲」は、屏風が2つ折りになっていること、「一双」は「一対」を意味しています。右側の屏風を「右隻(うせき)」、左側を「左隻(させき)」と呼び、このふたつを合わせて初めて、ひとつの完成された絵画となります。まるで恋人同士が手を繋ぐように、両者は切り離せません。
屏風の「扇(せん)」に注目!
一枚の屏風は、4枚のパネル(=扇)で構成されています。右隻の右端が「第一扇」、左隻の左端が「第八扇」と数えられ、絵は連続して描かれています。屏風を広げると、壮大な風景や物語がまるで一つの流れのように展開され、観る人を引き込む仕組みです。
なぜ「雙(双)」と数える? ~屏風に込められた美意識~
屏風を数える単位は、他の美術品とは異なり、特別な言葉「隻(せき)」や「双(そう)」を使います。これは「対になるもの」を表現するためであり、「二曲一双」は「2隻で1双」と数えられます。
昔の人々は、屏風を「片方だけでは完成しないもの」と考えたのです。右隻と左隻の響き合いは、まるで琴と尺八が共演するかのように、音と音が調和し合う様子を象徴しているのでしょう。
有名な二曲一双:俵屋宗達「風神雷神図」
「風神雷神図」といえば、教科書でも見たことがある人が多いのではないでしょうか。金地に躍動する風神と雷神――実はこの傑作も、右隻に雷神、左隻に風神が描かれた「二曲一双」の作品です。
屏風を中央に置くことで、両神が対峙する緊張感が生まれ、そのエネルギーが部屋全体に広がります。宗達は、「一双」だからこそ表現できる「動と静」「天と地」のバランスを計算し尽くしたのでしょう。
屏風の魅力は「間(ま)」にある
屏風の最大の魅力は、折り目が生み出す「間」にあります。折りたたんだ時には、別々の絵として見えるかもしれませんが、広げることで一続きの物語が現れるのです。それは、日本の伝統芸能である「間」や、俳句における「切れ字」にも通じる美学です。
「二曲一双」は、観る人に「想像する余白」を与え、見るたびに新たな発見をもたらしてくれます。
おわりに:屏風は「未来への手紙」
現代の私たちが屏風を前にした時、時空を超えた不思議な感覚に包まれることがあります。数百年前に描かれた作品が、今なおその想いを伝え続けていることに、思わず心が震えることでしょう。
「二曲一双」は、右と左が支え合い、時代を超えて語りかけてくる「文化の架け橋」でもあります。もし美術館で出会ったら、少し離れて全体を眺めてみてください。きっと、屏風の向こうで、誰かがほほえんでいるような気がするはずです。
✨コラムポイント✨
• 屏風の前でお茶を飲むと、絵の風景が「もう一つの窓」として見えてくるかも?
• インテリアに小さな屏風を飾ると、部屋に「物語」が生まれます。
屏風は、ただの家具ではなく、心を育てる「芸術の種」。その種を、ぜひあなたの生活に植えてみてくださいね。