「体内環境と私たち」
私たちの体は毎日さまざまな病原菌に囲まれていますが、これに対して体内には「免疫」という強力な防御機構が備わっています。免疫とは、非自己(つまり異物)に対して攻撃し、体を守る仕組みです。しかし、がん細胞のように免疫のブレーキをかけてしまい、攻撃を逃れるものもあります。このような背景から、私たちはがんという病気に対して理解を深め、適切な対応が必要です。がんは日本人の主要な死因の1つですが、近年では治療法も進歩し、寛解(症状が消えること)を目指すことが可能になっています。
がんとは?
がんは遺伝子の変異によって引き起こされる病気です。DNAの二重螺旋構造がコピーされるときにエラーが生じ、間違った配列が作られることで遺伝子変異が発生することがあります。このような変異が特定の遺伝子に起こると、細胞が正常な制御を失い、際限なく増殖を続ける「がん細胞」に変わります。がん細胞は健康な細胞や組織を侵食し、体の他の部分にも影響を及ぼします。
たとえば、造血細胞ががん化すると、血液中の正常な白血球が減少し、体の免疫力が低下します。こうしてがんはさまざまな臓器に転移し、健康な組織や機能を脅かすことになります。
がんの治療法
がん治療には以下のような方法があり、いずれも慎重に行われます。
1. 手術療法
がん細胞を物理的に取り除く治療法で、がんが広がっているリンパ節も併せて取り除くことがあります。
2. 放射線療法
放射線を使用して、活発に活動するがん細胞を破壊します。特に急速に分裂・増殖する細胞に有効です。
3. 化学療法
抗がん剤を用いて細胞分裂を抑制し、転移を防ぐ方法です。広範囲で効果があり、体内のがん細胞全体にアプローチできますが、正常な細胞にも影響を与えるため、副作用の管理が重要です。
免疫とがん細胞の関係
実は、がん細胞は健康な人でも1日約5,000個ほど発生していますが、通常は免疫によって排除されるため、大きな問題になることはありません。しかし、がん細胞は免疫の働きを妨げ、攻撃から逃れることができる特性を持つことがあります。
例えば、がん細胞はPD-L1と呼ばれるタンパク質を持ち、このPD-L1がキラーT細胞のPD-1と結びつくことで、がん細胞が免疫の攻撃を逃れるのです。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑博士は、がん治療に新たな可能性をもたらしました。抗PD-1抗体を使用することで、キラーT細胞ががん細胞を攻撃しやすくなり、免疫力を強化してがん細胞と戦うことが可能になりました。ただし、免疫の働きが強まりすぎると自己免疫疾患のリスクもあるため、治療は慎重に進められます。
がん予防と早期発見の重要性
がんを防ぐためには、定期的に健診を受け、生活習慣を見直すことが大切です。たとえば、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスの管理ががん予防に役立つとされています。また、早期発見ができれば治療の選択肢も増え、寛解を目指しやすくなります。ストレスを減らし、免疫力を高めることが、私たちの体を守るために役立つのです。
結論
がんはかつて「不治の病」と考えられていましたが、近年の研究や治療技術の進歩により、その考えは大きく変わりつつあります。今やがんと向き合うための知識や方法も豊富にあり、積極的に予防と早期発見に努めることで、寛解を目指すことも可能です。