ドラマシナリオ10「スワンボート」②
■前回までのあらすじ■
作品テーマ(キーアイテム?)は「湖」。バツイチの傷を癒せない永嶋ゆりえと同じくバツイチの宮崎が、過去と向き合い前に踏み出す様子を描く。
結婚相談所で知り合ったゆりえと宮崎。ある日のデートは宮崎の仕事の都合でドタキャンに。夜遅く帰宅した宮崎に夕飯を作るゆりえ。残念に思う気持ちを抑えつつ、帰宅するゆりえ。揺れ動く気持ちの中、宮崎と再びデートする日がやってきた……
■シナリオ本編■
◯ピラルクハイム・エントランス(朝)
タイトル『当日』
『ピラルクハイム』と彫られた壁にもたれ、あくびをしながらスマホをいじっている宮崎。ダウンジャケットを着込んでデニムのペインターパンツ姿。
スマホ画面はメッセージアプリ。
「永嶋ゆりえ」とタイトルされた会話画面。「11月19日(土) 今から向かいますね。もう少し待っててください」と表示されている。
顔を上げて、歩道の行き交う人を見つめる宮崎。ギュッと目を閉じて大きく開き、あくびを噛み殺す。
宮崎「そろそろ来る頃かなあ……あれ?」
ハザードランプを点滅させながらレモンイエローの軽自動車が宮崎の目の前で停車する。
不思議そうな顔で軽自動車を見つめる宮崎。
パワーウィンドウが開き、運転席からサングラスをかけたゆりえが手を降って会釈する。
目を丸くししながら、助手席のドアを開けて乗り込む宮崎。勢いよくドアを閉め、いそいそとシートベルトを締める。
◯ゆりえの車・車内(朝)
物珍しそうに車内を見渡す宮崎。
ルームミラーにぶら下がっている芳香剤のモンテスラの形のプレート以外は飾り気のない車内。
ゆりえ、ゆっくりと車を発進させる。
ゆりえ「おはようございます。ちょっと道が混んでたので、遅れちゃった」
宮崎「へー、車、持ってたんだ」
ゆりえ「両親もトシでしょ、電車移動はちょっとしんどいし、タクシー代もバカにならないから」
ゆっくり頷く宮崎。
ゆりえ「でも、両親以外の人を乗せるのは初めてですけどね」
ゆりえを見返す宮崎だが、ゆりえは前を向いたままで、含み笑いをしながら、ハンドルを握りなおす。
◯竜尾(たつび)街道
渋滞はせず、順調に流れている車道をゆりえの軽自動車が軽快に走る。
◯ゆりえの車・車内
カーナビは動いているものの、一切見ずに慣れた様子でスイスイと運転するゆりえ。腕を組んで外を眺める宮崎。
宮崎「井寒湖でしたっけ。よく行かれるんですか?」
ウインカーを出して、ハンドルを回すゆりえ。
ゆりえ「どうして?」
宮崎「ナビ、全然見てないし、パッと見でわからなさそうな道を通っているんで」
ゆりえ「……」
宮崎「すみません、妙なこと聞いちゃいました? あ、あの、言いたくなければいいですから」
ゆっくり首を振るゆりえ。
ゆりえ「あの時以来、時々、1人でぼんやりしたい時に行くんです、あの湖。駐車場から、波の様子をずっと見て、アタマを空っぽにするんですよ」
宮崎「あの時……」
ゆりえ「……前の旦那と離婚したばかりの時です。気持ちがグチャグチャになって、整理がつかなかったんです」
腕を組んだまま、動かない宮崎。視線はぼんやりしたまま外を見続けている。
ゆりえ「どこかで1人で思いっきり泣きたかったんです。でも、両親に余計な心配かけたくないし、だからってお酒も強くないんで、やけ酒もできないし」
宮崎「そうね、永嶋さん、すぐ酔っ払うもんな」
ゆりえ、交差点の一次停止でブレーキ。左右を見て再び発進させる。
ゆりえ「行くところ決めないで、車走らせたら、井寒湖に着いたんです。駐車場にあまり車もいなかったから、目立たない端っこに停車して、思いっきり泣きました」
宮崎「……」
ゆりえ「前の旦那は、私に隠れて二股かけてたんです。結婚してからもそれは続いていて……悩んで悩んで、別れることにしました」
宮崎「そっか……」
◯井寒湖入り口・交差点
『井寒湖入り口』と書かれた看板が下がっている信号。黄色から赤に変わる。
◯ゆりえの軽自動車・車内
ゆっくりとブレーキを踏んで車を停車させるゆりえ。ポロポロと大粒の涙が溢れる。
ゆりえ「ごめんなさい、宮崎さんに関係ないのに……でも……でも、あの時は本当に悲しくて、悔しくて……泣くしかなかったんです。慰謝料もらっても、私の気持ちは……気持ちは……」
ハンドルを握りしめるゆりえ、涙が止まらない。ゆりえの手元に水色のハンカチが差し出される。助手席に顔を向けるゆりえ。
宮崎がうつむいてハンカチを差し出しながら泣いている。
驚きながら、ハンカチを受け取るゆりえ。目尻の涙を拭く。
ゆりえ「み、宮崎さん?」
宮崎「俺も同じだよ。お金もらっても、踏みつけられた気持ちは、簡単に戻らない。わかる、わかるよ……」
◯井寒湖入り口・交差点
赤から青に変わる。
◯ゆりえの軽自動車・車内
ハンカチを右手に持って、涙を拭きながら、左手でハンドルを握りゆっくりと車を発進させるゆりえ。
宮崎「悲しい思い出のある場所だけど、永嶋さんにとって、大切な場所なんだよね……」
ゆりえ、笑顔を作りながら涙を溢す。宮崎も涙をためながら、ゆりえの腕に手を当ててさする。
つづく
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