184日前|〝ずるい読み方〟本の読み方を「アンラーニング」する|司法試験合格逆算日記


〝ずるい読み方〟本の読み方を「アンラーニング」する


「読書」への固定観念を疑う

読書は尊い行為であり、「線を引く」「精読する」「ノートにまとめる」などの手法が長らく推奨されてきたものである。しかし、こうした従来の「正しい読書法」が、実は学習効果や思考力を阻害することもある、という視点を提示したい。筆者はそのために「アンラーニング」という考え方を導入している。
※例えば、線を引くという行為で見ると、上記の段落の太字部分に目が行ってしまうことになる。これだと、その手前の部分をきちんと読めなくなってしまう可能性がある。本当は大切だけれども繰り返し読む中で抜けや漏れに繋がる可能性がある。

読書の仕方をアンラーニング

アンラーニングとは、これまで正解だと信じられてきた固定観念をいったん壊し、新たな方法や視点を模索するという姿勢である。たとえば、読書の場面であれば、「線を引くことをやめてみる」「いきなり最初から最後まで丁寧に読むことを避けてみる」「すぐにノートにまとめることをやめてみる」など、一見すると逆説的な提案を行うことになる。こうした変化が、思考の深まりや学習効率を飛躍させる契機となる可能性がある。


線を引くことのリスク――「わかったつもり」を生む

読書の際、重要だと思う箇所に線を引くことは多いであろう。しかし、「線を引いた=そこを理解した」という錯覚に陥る危険があることを見過ごしてはならない。線を引いて満足すると、その先の考察や自分なりの疑問点の掘り下げが止まりやすいからである。

答案作成においては、条文や判例の理解は単なる情報の確認にとどまらず、その背後にある論理構造や文脈を理解した上で自分の言葉で論理的に表現する必要がある。そこで「線を引いて安心してしまう」という読み方は、思考のブレーキをかけ、場合によっては誤読を招くおそれがある。

線を引くこと自体が無意味というわけではないが、線を引く前後に「なぜ重要だと感じたか」「どう活かせるか」を少しでも確認する時間を確保する必要があるだろう。


「精読」至上主義が抱える問題点

文献の内容を一字一句逃さずに精読することは、一見すると誠実な学習態度のように思われる。しかし、すべての書籍を精読する時間は有限であり、また精読することで見えてくることと同時に、見落とす視点が存在する。特に、専門領域の文献やビジネス書など、早い段階で全体像を把握したほうが利点が大きい場合は「最初から最後まで丁寧に読む」ことがかえって遠回りになることがある。

たとえば、条文や判例集を片端から細部まで精読していると、全体構造や判例の重要なキーポイントを把握する前に疲弊してしまい、結局学んだ内容を体系的に理解しにくくなる場合がある。目的を明確にし、要点や論点を見極めながら読み進めることで、効率と理解度を両立しやすくなる。


ノートまとめのタイミング――急ぐほどに効果は薄れる

本を読んだ直後にノートを作成することは、まじめな人にとっては魅力的な行動に見える。しかし、まだ頭の中で内容が「自分のもの」になっていない段階でノート化に取りかかると、「ノートだけが出来上がった」という状態に陥りやすい。

ノートやメモを取ること自体は悪ではないが、「どの情報が自分にとって本当に価値があるのか」を見極めてから記録を残したほうが、情報を処理しやすい。読了後に最低でも半日、あるいは一晩程度時間を置き、その時点でなお印象に残っている部分だけを書き出すようにすると、自分の脳内で熟成された情報だけが抽出されることになる。


アンラーニングがもたらす変化

アンラーニングとは、今まで「良い」と思い込んできた方法や常識を一度リセットして、新しい手法を取り入れることである。読書の文脈においては、次のようなポイントが挙げられる。

  1. 線を引きまくらない
    線を引く前に、なぜそこが重要なのか一度立ち止まって考える。

  2. 最初から最後までじっくり読まない
    まずは目次や概要をざっと俯瞰し、必要な章や段落を重点的に読む。

  3. すぐにノートにまとめない
    読後すぐのまとめ作業を避け、ある程度時間を置いてから本当に残したいことだけを抽出する。

これらは一見すると、教科書的な読書法に反する提案である。しかし、このようにしてアンラーニングを実行すると、読書が義務的な作業から解放され、むしろ新鮮な発想や深い理解へとつながりやすくなる。


「気づき」の重要性

私は「リーガル・インストラクショナル・ストラテジスト」として、法律学習の戦略立案や個別ミーティングによるサポートに携わっている。こうした分野では、「自分の考えを深めるために文献をどう扱うか」が、学習者の将来的な知識運用に直結する。

膨大な量の条文や判例、学説に対し、とにかく線を引いて安心したり、いきなり全ページを精読したり、まとめノートを作って満足してしまったりという読み方をしていると、実際の裁判や契約交渉などで柔軟に思考を組み立てる力が養われにくいのではないかと感じている。必要なのは「考え続ける姿勢」であり、そのためにはアンラーニング的なアプローチでこそ、思考の広がりが期待できるのである


まとめ――読書の在り方を再設計する

以上のように、これまで推奨されてきた読書習慣を見直し、アンラーニングによって再構築することが重要である。

  • 線を引く行為を意図的に減らすことで、テキストへの思考を促す

  • まず全体像をつかみ、目的に合った部分に注力することで、時間と効果を両立する

  • 読後に距離を置いてからノート化することで、自分の言葉と視点を育てる

こうした読み方は、日常の読書をより軽やかなものにしつつ、法律学習やビジネスなどさまざまな分野での真の理解と応用力を高める手段となるはずである。

読書とは本来、知識の獲得だけでなく、新しい問いを生み出すきっかけでもある。その機会を最大限に活かすためにも、「これまでの読書法」を一度アンラーニングし、自分に合ったアプローチを模索してみてほしい。

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安田貴行|リーガル・インストラクショナル・デザイナー&ストラテジスト|30代からの司法試験・予備試験
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