Vの悲劇(1)「ひょっとして繰り返してるん!?…」ーVは病院で(病院にたどり着かず)何回死んでしまうのか?
「ひょっとして繰り返してるん!?」
いわゆる「転生したら……」ものの主人公に抜擢されてしまったV。
「またこのパターンや…何回目やねん…」
今日も犯罪被害に遭ったV(大阪市の南のほう出身)。
「どうせ病院に運ばれる途中で事故に遭うか、入院先の医者がミスするんやろう…。」
半ば諦めモードである。
このようなことが始まったのは、平成19年に実施された司法試験短答式試験からである。
「いい加減にこのループから抜け出したい…」
そんなVの願いも虚しく、刑法の「重要論点」として出題が続けられている。
Vがこのループから抜け出し救われる日が来るのか…。過去の経験の中に何か糸口があるかもしれない。ここからは、Vのループ経験を確認していく。
※以下では、説明の便宜上、問題文の被害者に相当する人物を全て「V」としています。
平成19年第12問選択肢3.
現行司法試験の歴史上、怪我をさせられ入院したVが死亡したのは、平成19年のことである。
「このときに医者の言うことを聞いてしっかり治療しておけば…、先生の言うことを聞かなかったため、バチが当たったんかな…」
ループしていると気づいた日以来、Vは、医師のいうことを聞かずに暴れたことをずっと後悔している。
平成20年第1問事例
「前も病院で苦しかったようなことがあった気がするわ…」
2年連続で災難にあってしまったV。このときはまだループに入っていることに気づいていない。「病院で暴れていたのは夢だったのか」と思っており、自分の状況がよく分からなかったのだ。
暴行を加えた甲が悪いのか、救急車の運転手が悪いのか、それとも、大型トラックの運転手が悪いのか。
しかし、これはまだ始まりに過ぎなかった。
平成21年第1問選択肢2.及び4.
「連続でキツくない?」
「2度あることは3度ある」で収まらず、4度目までやってきた平成21年。
3度目は病院にたどり着くことすらできなかった。4回目は放火までされるという始末。
残念ながら、Vの不幸度は年を追うごとに高くなっているようである。
Vに火が迫る中で思い出したことがあった。Vは、法学部出身で、なぜか刑法の授業だけは皆勤賞レベルで出席していた。教壇の先生が色々と説明していたのを思い出す。
それは「因果関係」を取り扱った「刑法Ⅰ」の授業の一コマであった。
「Vは死亡していますが、……という事情が存在した場合、刑法上どのように評価すべきでしょうか。Vさんいかがでしょうか?」
Vは、大教室での講義でも、学生に発言を求めるAの授業スタイルが好きであった。一方的に話されるよりも集中して取り組めるし、Aは、トンチンカンな答えが返ってきても、それを基に色々と思考を整理してくれた。
Aから指名されたVは、よくわからなかったので、とりあえず適当に答えてみた。
「とにかくVがかわいそうやと思います。」
小学生が答えるような感想が返ってきたAは、呆れた顔ではあったものの、「かわいそうなのはそうですが、刑法的にはどうなりますか?」と追加で質問した。
こんなときでも怒らないのが、学生から人気のある理由なのだと思う。
Vは、「刑法的には因果関係の有無が問題となります。まず、条件関係は認められます。あとは、法的因果関係が認められるかどうかということになりますが、甲の実行行為に含まれる危険が現実化したと言えるのかを検討する必要が……」というところまで思い出したところで、今はそれどころではないことに気づいた。
何者かが放った火が迫ってきているのである。「誰やねん…病院に火ぃつけたんは…」気を失ったVが目を覚ますと、また、病院を病院をウロウロしていた。
平成28年第5問(予備試験第7問)選択肢3.
「ひょっとして繰り返してるんとちゃう!?」
「今回の傷は酷い…甲、それはないわ…。」
Vは、すでに数回のループを経験しているうちに事態が飲み込めてきた。
「刑法の問題のVになってしまってループしているんやな…同じ名前やからかな…。」
「嫌なループや…。転生ものなら、勇者とか、魔法使いがよかった…最悪でも、スライムやろう…。」
恨み言を述べている中で、意識を失った。
令和元年第5問(予備試験第7問)事例Ⅱ
「どうしてお医者さんの先生の言うことが聞けないんやろう…」
またしても首を刺されたV。
「どうして犯人は、首を狙ってくるんや…たぶん、実行行為がとても危険だということを示すための配慮なんやろうけど…。」
身体の枢要部だから……と答案に書いたことを思い出したV。
自分が答案を書いている姿が思い浮かんだところで目が覚めた。
見覚えのある天井。また、いつもの病院である。もう、夢なのか現実なのかがよくわからない。
「今回は大丈夫やろう…。」
何が大丈夫なのか分からなかったが、そう思って、医師の指示を守らず、病院から抜け出してコンビニエンスストアで買い物をしたり、公園の散歩をしていた。
しかし、ループに陥った主人公は、なかなか抜け出せないのがお約束である。公園の散歩中、急に容態が悪化したため、死亡してしまった。
……(2)へ続く
過去問にはパターンがある
今回のように、過去問の選択肢にはパターンがあります。
自分なりに、同じパターンを整理してみて、頭の中を整理すれば、同じような事例が出されたときに短時間で回答することができます。
大事なのは、「どういう視点で分析するのか」ということです。
今回のVのケースであれば、「実行行為の危険が現実化したと言えるのか」という視点で検討を進めていくことが必要です。
教科書等で検討する視点を確認した上で、各選択肢を検討するようにしてみてください。
Vの悲劇(2)では、視点の整理を行ってみたいと思います。
今後のネタ
なお、今後、「いつも偶然居合わせて犯罪を手伝っちゃう乙や丙」、「医師甲の思惑に気づいてしまう看護師N」、「配達日時を指定する割にはいつも留守のXと帰り道はいつも天気が悪くなる(雷が落ちる)Y」などを書いていければと考えています。
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