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私立授業料無償化は不要

日本維新の会が高校授業料無償化を掲げて自公の予算案に賛成しようとしているという趣旨の記事を読みました。Xでは高校授業料無償化の是非についてさまざま議論されていますが、私は公立高校の無償化には賛成ですが、私立高校に対しては反対です。

公立とは

公立とは、全て国と自治体の公費(つまり税金)で運営され、文部科学省の管轄下で定められた学習指導要領に基づき公平で均一な教育が施されている学校です。義務教育である小中学校は公立がほとんどであり、全国どこでも一定の水準の教育が受けられます。公立高校は普通科だけでなく、生徒の進路に応じて工業高校、商業高校、農業高校などの専門科があったり、深く学ぶ内容に特化した国際科や科学科、音楽科なども存在します。自治体の教育委員会に管理され、学習指導要領の基準に則りつつ各校の特色を生かした教育が施されます。教員は自治体の教員採用試験に合格した公務員で、定期的に転勤があります。

私立とは

一方、私立は教育系企業であり、それぞれの学校に民間の経営者が存在します。競争原理によって公立高校以上に特色を出す必要があり、普通科の中でも特定のスポーツに秀でた高校、宗教系中高一貫校、進学に秀でた難関校などが存在し、工業科や商業科もあります。私立高校は卒業認定に必要な単位数の縛りはあるものの、学習指導要領の内容に関わらず自由にカリキュラムを組むことができます。最近では通信制の高校が急増して不登校生徒の受け皿になっています。私立高校の教員はその学校(一企業)に雇われた社員であり、系列校がある場合は別にして基本的に転勤はありません。ずっと同じ学校で指導し続ける先生が大半です。

公立と私立の比較

小中に比較して高校に私立が多いのは、生徒の進路が定まってきてより特化した教育を求めてのことだと思われます。例えば体育系部活動の実績でいえば、公立では常に顧問(教員)の転勤があるため、一時結果を出しても継続することが難しい。また基本的に公立教員には部活動の指導に対する手当もないし、特定の部活動を補助する予算もありません。顧問が超時間勤務に加えて私費を投じて部活動を支えている場合が多く、他の校務も抱えながらのジリ貧です。一方、私立ではスポーツの実績は一企業として宣伝効果が抜群であるため万全なバックアップ体制が取れます。優秀な顧問の採用と十分な手当。校務も軽減して競技の指導に心血を注ぐことができます。結果、さらに良い実績を積むことができる。現在、多くの高体連主催の大会で入賞する学校はほぼ私立です。

また、進学に実績を出している高校では独自のカリキュラムが特色で、中高一貫校の場合、中学3年から高校の内容を取り入れるなどの工夫がされています。進学実績もまたこの上ない宣伝効果があるため、経営側の判断で実績ある教員採用に加え有名塾講師を非常勤講師として招いて有料講座を開くこともできます。授業外の補習や補講にも順当な手当を出し、自習室など学習に適した設備も整えることができます。

学費について

このように私立が実績を出すための財源は、ずばり保護者から徴収する学費です。私立高校の場合、平均して1年間に70万円ほどかかると言われています。内訳は授業料40万ほどとその他(設備費など)が30万ほど。一方で公立高校の費用は年間20万円程度。内訳は授業料が11万8,800円(全国一律月額9,900円)と、その他PTAや生徒会費、修学旅行の積立金です。公立高校の設備費は全て公費で、保護者からは徴収しません。

授業料無償化の実態

ここまでが現状把握でしたが本題に戻って、この授業料を無償化するという案に、違和感を抱きませんか。実は授業料無償化は国の政策としてすでに始まっており、2020年以降は所得が910万以下の世帯に就学支援金という名前で公立高校の授業料分(年間11万8,800円)は支給されています。これは私立高校にも当てはまっているため、公立高校の生徒は実質無償化、私立高校の生徒は年間11万8,800円分の補助を受け取って残りを負担するということになっています。

今、日本維新の会が無償化しようとしているのは、私立高校の生徒の授業料のうち自己負担している分(年間30万円くらい)のお金です。それは果たして必要な無償化でしょうか。

今までここで示してきたように、私立は生き残りのためにそれぞれに特色を設けて目的に特化した教育を売りにしています。それは企業としての経営判断であって、公教育にあるような「国民の共通利益の実現」に沿うものとは限りません。公教育の柱には「宗教的中立性」という点もありますが、私自身、キリスト教系中高一貫校の出身で母校は聖書の一句を校訓としており、毎日の礼拝と6年間欠かさず週一で聖書の授業がありました。このような宗教教育の授業料も公費で負担すべきでしょうか。私は母校については恵まれた環境で6年間を過ごせたことに感謝こそすれ、教育内容が悪かったとは全く思っていません。しかし、無償化の対象には相応しくないと考えています。我が家を含め私立進学を希望する家庭は、金銭的負担は承知の上でより良い環境を選んでいるのです。資本主義の前提として消費者がより良い企業サービスに納得してお金を払っている状況に対して、わざわざ税金を投入して無償化すべき案件ではないのです。しかも所得制限はあるものの、すでに年間12万ほどの支援金は支給されている。これ以上の支援は過剰です。

そんなお金があるのなら、公立高校の設備にもっと税金を投じるべきではないでしょうか。公立離れの原因の一つに設備の老朽化があります。予算が潤沢な私立に比べてギリギリの公費でなんとかしている公立とでは、設備面で差が出ることは明らかです。国は公教育の充実を掲げて私立に負けない公立高校の設備投資をすべきです。競争原理の外側に公教育をきちんと残しておくことは、長い目で見たときに必ず日本の国益につながります。維新のこの授業料無償化計画の狙いに公立高校の統廃合があるという記事も目にしましたが、公教育の衰退は教育の商業化・利潤追従主義を招いて教育の本質を歪めます。

結論

ここまで読んでもなお、私立授業料の自己負担年間30万円分を無償化すべきだと思う人がいたら、理由を伺いたいところです。どうしても行きたい私立高校があるならそれに見合った収入を確保し、資金計画を立てるべきです。そうでないなら学力に見合った公立高校に行けば良いのです。日本全体にお金が余っていて豊かであるならともかく、相次ぐ増税に社会保険料の負担増、高額医療費上限増をはじめ、財源がないと主張する与党からしてそんな余裕はないとすれば、私立授業料の無償化はただの贅沢です。


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