君と僕の距離
ただひたすら想っていた。花が咲いたように笑う君を。今までだってこれからだって、それは変わらないと思っていた。隣でその顔を見つめ、想い続けられるのだと。すくすく健康的に育っていくさまを、子どもからおとなへ、思春期を経て変わっていくさまを、ずっと見てきたから。
だけど、それは違うと気づく。気づいてしまった。僕のいのちはもうすぐ終わる。君がもっと綺麗になった姿を見届けることなく、小さくなって、やがて僕はいなくなる。
時折僕に笑いかける君は、太陽だった。水だった。僕の生きる糧だった。
君の笑顔のおかげで、僕のいのちがどれだけ救われたかしれない。寿命だって、きっと、ほんとうよりずっとずっと延びた。それでも、やっぱりすべての生きものに平等に、等しく終わりはやってくる。君よりもずいぶん早く、それは僕のところに来てしまったみたいだ。
君はまだ、そんなことを知らない。無邪気な顔で眠っている。僕を向いていた顔が、ごろりと寝返りをうって見えなくなる。背中がふくらんだりしぼんだり、君の生が動いている。
窓辺に佇む僕には、君の背中がやけに遠く見えた。
自分がこんな風になってしまって、僕は、ようやく思い知った。君の傍にずっといられるのは僕じゃないんだってこと。美しく咲く君の隣には、君のように美しく咲ける人が相応しい。僕みたいな、枯れゆくだけのいのちは君に似合わない。僕の存在は君には不釣り合いだ。けれど、これだけは覚えておいてほしい。最初から動いてなどいなかった唇で僕は呟いた。
──君はきれいに咲き誇っている。でも、僕は知ってしまったんだ。
君のこと、ずっと見守っていたかったけれど。
──咲かない花もある。