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ドン・チェリー 2 「シンフォニー・フォー・インプロヴァイザーズ」 Don Cherry "Symphony For Improvisers"
Tracklist
A1 Symphony For Improvisers A2Nu Creative Love A3What's Not Serious A4Infant Happiness
B1Manhattan Cry B2Lunatic B3Sparkle Plenty B4Om Nu
Credits
Cornet – Don Cherry
Tenor Saxophone, Piccolo Flute – Pharaoh Sanders*
Tenor Saxophone – Leandro 'Gato' Barbieri*
Vibraphone, Piano – Karl Berger
Bass – Henry Grimes, Jenny Clark*
Drums – Edward Blackwell*
Recorded By – Rudy Van Gelder
Notes
Recorded on September 19, 1966.
Recorded At – Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
ドン・チェリーはブルー・ノートに3枚のアルバムを残している。どれも好盤なのだが、その中でも本作と次作にはファラオ・サンダースが参加していて、個人的に良く聴くアルバムである。
その二枚の内、もう一枚の"Where is Brooklyn?"はカルテット編成で、その分ソロが聴きどころになっていて良いのだが、こちらはベースがダブル・キャストで3管、その上カール・ベルガーのヴァイブが入るという豪華編成。これもこれで聴きどころの多いアルバムとなっている。
ドン・チェリーはオーネットのバンドを離れた後、ロリンズと共演したり、ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイブに参加したり、アイラーとレコーディングしたりジョージ・ラッセルと仕事をしたりと、世界を広げていったわけであるが、ヨーロッパに渡たり、当地のメンバーとグループを組むようになって以降はジャズをベースとしながらも、リズムにしろモードにしろ様々な要素を取り込むようになり、世界を放浪するノマドのような音楽を作るようになった。
このアルバムは過渡期的ではあるが、ベースのJenny Clarkはフランス人、Gato' Barbieriはアルゼンチン人、Karl Bergerはドイツ人という多国籍編成となり、典型的にはスパニッシュ風のフレーズが出てきたり、この後のドン・チェリーの方向性の片鱗を示しているように思う。
チェリーの後のアルバムにも言えることだが、このアルバムは大変聴きやすい。まあ、個人的にオールド&ニュードリームスなど聴きつけているせいもあるのだが、その要因はやはりブラックウェルのソリストを的確に支え且つ煽るドラミングの素晴らしさにあるように思う。
このアルバムが録音された66年前後はセシル・テイラーのトリオでサニー・マレーがタイム・キープ的なドラミングを放棄し、フリー・ジャズのドラミングのあり方に一石を投じてから数年が経ち、多くのニュー・ジャズ、フリー・ジャズ系のドラマーがマレーの指し示した方向に傾斜していったころである。
その中にあって、ブラックウェルはタイム感を感じさせながらも変幻自在且つ的確なドラミングで、マレー以降の流れの中にあって、その流れとは別の独創的な表現を指し示していると思う。この辺りはサニー・マレーよりもエルビン・ジョーンズのポリリズムとの近さを感じる。例えばミルフォード・グレーブスのようにアフリカン・パーカッションよりになることもなく、ドラム・セットの要素にこだわることで、いってみればアメリカの音楽としての「ジャズ」性のようなものをキープしていて、それが聴きやすさの源泉になっているように感じる。
ブラックウェルの話が長くなったが、各ソリストも大変うまく機能していて、チェリーの後年の形容詞になる「オーガニック・ミュージック」性を全体に表現できている。であるから、チェリーの音楽に対するヴィジョンがとてもよく実現された演奏であるということになるわけで、なんとなくオーネットの子分風であったドン・チェリーが、マイルスがパーカーの子分風情から脱皮したように、自らの音楽を掴んで表現することに成功した、その瞬間を捉えたような作品であると思う。
ドン・チェリーのオーガニック・ミュージックの原点として意義のある作品で、これがブルー・ノートに録音されているところが、ブルー・ノートの凄さである。