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DIC川村記念美術館 休館 ハゲタカの狙いは?

DIC川村記念美術館が休館するという。

個人的にはコレクションと奇跡的な環境があいまり、一番好きな美術館であるし、いちばん好きな場所の一つでもある。季節の良いころはもう桃源郷の様相で、本当に得難い稀有な場所だ。

その場所がオアシス・マネージメントという香港のファンドに取り憑かれ、なくなろうとしている。大変な事態だ。日本で企業や成功した個人が社会的貢献を意識していた時代の一番の成果が、株主利益をふりまわす下品なやからに破壊されるのである。

日本でもフリードマンの信奉者が跋扈しだす2000年あたりを境に「会社は株主のもの」「経営者は株主利益以外を考えるな」とバカの一つ覚えのように言い募るホ〇〇モンなどに代表されるやからが元気づき、労働者が非正規化とあいまってとことん搾取され、社会が徹底的に破壊され、ついにこんな事態に。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC277KZ0X20C24A8000000/

この日経の記事によると「保有する全作品の資産価値は、6月末時点で112億円(簿価ベース)」信じられない簿価である。この簿価は会社保有のもの(約半分)だけらしいが、全体で考えると時価はひょっとすると100倍かも。香港のファンドはこれに目をつけ、昨年末に会社にとりついたわけである。そもそもこの稿を書いている時点での会社の時価総額2889億、PBR0.7であるから、4000億円程度の会社と評価されているわけだが、全体の美術品の含みがそれを超えていてもおかしくはない。

ちなみに、DICは2013年にバーネット・ニューマンの「アンナの光」を売って103億の特別利益を計上している。https://minkabu.jp/uploads/newsfeeds/pdf/204185/4cbf9ac61.pdf

このときもかなりの波紋をよんだが、今回はそれどころではない。

この香港のファンドはただただ美術館のみを問題にしているらしく「グループの長期的な企業価値を向上させるために、外部の視点から当社取締役会に対して助言することを目的に、2024 年4月に「価値共創委員会」を設立しました。」などとしているが結局美術館以外の話はしていない。

千葉日報によると「今後の運営について、規模縮小と移転の実現性や、館によるブランド価値向上の有効性、作品売却による経済価値などを総合的に勘案し、館の運営の中止の可能性も排除せず詳細検討を行う、などとしている。」https://www.chibanippo.co.jp/news/local/1267647

まさかとは思うがコレクションを叩き売って株主還元?

簿価を見れば明らかだが、これだけ価値が上がり続けるものを売るなど、ハゲタカ以外は考えない。これはDICにしても換金性の高い虎の子の資産であるはずだし、それを美術館で展示メンテナンスすることで、長期的に価値が上がり続けることになるのはこれまでの経緯で明白なこと。美術館の赤字などコレクションのメンテナンスと研究・プロモーション費と考えれば安いものだ。短期のリターンを狙うやからの言うなりではDICの将来も暗い。

さて、ここで簡単にここまでの経緯をまとめるておく、
まずは

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC284QX0Y3A221C2000000/

「香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントがインキ大手のDICの株式の6.9%を保有していることが28日、分かった。ポートフォリオ投資と重要提案行為を目的とし、「株主価値を守るため、重要提案行為を行うことがある」としている。」

このファンドがDICにとりついたのが去年の12月ごろ。

その後2月13日の決算発表時に

https://pdf.irpocket.com/C4631/KKjE/x4Ic/gz7Q.pdf

「減損損失の計上、2023 年 12 月期通期連結業績予想と実績値との差異、並びに執行役員に対する役員賞与の不支給に関するお知らせ」

これはうまくいっていない2021年の事業買収に関わる事案をファンドにつかれたものと推察できる。これをテコにファンドは社外取締役を送り込んだと推察され、翌日の2月14日付で「取締役の追加選任に関するお知らせ」をリリース。

ここでDonna Costa氏が以下の理由で選任される。

「当社の 2024 年度取締役会メンバーの選任候補者については、2023 年 11 月 14 日付で公表しましたが、その後、経営環境が大きく変化する中、現下の業績低迷、事業計画の遅れ等を踏まえ、各ステークホルダーの信頼確保が喫緊の課題と認識しております。」

3ヶ月で方針変更があったわけで、このDonna Costa氏がファンドの代理人であることが推察される。

この人事は3月28日の株主総会で承認される。

その後4月26日に

「価値共創委員会の設立および運営開始に関するお知らせ」

https://www.dic-global.com/ja/news/2024/ir/20240425130121.html

があり、

1.価値共創委員会設立の目的
1) 当社グループの長期的な企業価値を向上させるために、外部の視点から取締役会に対して助言することを目的に2024年4月に価値共創委員会を設立しました。社外取締役によって、高次かつ広範な見地から様々な経営課題について議論いただき、その助言内容に基づき取締役会における審議につなげてまいります。

2) 審議テーマは、ROICの改善策や保有資産の有効活用策、美術館運営といった、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応に関連する事項全般を想定しています。

2.価値共創委員会の構成メンバーおよび位置づけ
1) 本委員会は、独立性・客観性を重視し、社外取締役のみで構成し、テーマに応じてアドバイザーとして社外有識者を招聘します。現在の当社社外取締役4名全員が構成メンバーとなり、うち1名が委員長を務めます。

ということで多分Donna Costa氏が主導する「価値共創委員会」が始まる。その後今日まで外から動きは不明であった中、今般の発表に至る。

https://pdf.irpocket.com/C4631/Rhyn/DBJg/TKxD.pdf

結局この「価値共創委員会」の目的は美術館で、

「当社が所有する DIC 川村 記念美術館(所在地:千葉県佐倉市)の運営の在り方(以下「美術館運営」)を初回の審議テーマとし、集中的に議論されてきました。」

「美術館運営」の審議にあたっては、同委員会を本年4月から7月の期間において合計6回開催し、うち、 第4回委員会においては社外有識者を招聘し、企業経営及び美術館経営の両面からアドバイスを頂きまし た。 また、これとは別の複数の外部機関に、美術館のコスト構造の分析、検討すべき代替案の収支想定に 関するアドバイス、保有美術品の潜在的価値に関する評価レポートの作成等の業務を委託し、議論の参 考としました。このようなプロセスを経て、美術館の現状を確認し、今後あるべき美術館の運営に関して議 論した結果、同委員会から当社取締役会への助言内容が取りまとめられ、2024 年8月9日開催の当社取 締役会において提出されました。 」

とのこと。たった4ヶ月、6回の審議で以下の美術館に関するかくも重大な提言がなされた。その内容は

3. 価値共創委員会による「美術館運営」に関する助言内容

(1) 価値共創委員会による「美術館運営」に関する助言内容は、大きく以下の3点に集約されます。

(a) 当社が美術館を運営するためには、美術館の存在価値や目的、理念を明確化する必要があり、特に 株主に対する説明責任が求められること

(b) 今後の美術館運営に関しては、i. 「現状維持」、ii. 規模を縮小して移転する「ダウンサイズ&リロケー ション」、iii. 「美術館運営の中止」、といった選択肢が考えられること

(c) 現在の当社業績、美術館と当社経営・事業との関係、投資家からの意見等を踏まえると、現状のまま 美術館を維持、運営することは難しいと考えられ、また運営コストを考慮すると、現実的に詳細検討 すべき案は東京への移転を想定した「ダウンサイズ&リロケーション」もしくは「美術館運営の中止」を 前提とした2つの案となること

(d) 美術館に関する情報開示と透明性の向上のため、当社が保有する主要美術品のリストについて、本資 料の別紙のとおり開示すること

主要美術品リストは上のリンクで確認いただきたいが、上述の2013年のバーネット・ニューマンの「アンナの光」の売却例を考えると、フランク・ステラの1-2作品を売却すれば全体の簿価の112億円を超えるのではないか?

このファンドが入り突然美術館に関して、株主に対する説明責任が求められた。ずっとあった美術館で株主優待で招待券、作品を利用したカレンダーなどが配布されて来たわけで、おおかたの株主は美術館の存在を受け入れていたはずだが、このファンドはそうは考えず「現状維持」はありえないと提言した。

これを受け今般の取締役会の発表となる。

(2) 当社取締役会は、今後の美術館運営に関して最終的な結論には達していないものの、当社として美術館 運営を継続する意義に基づき、今後の対応を以下のとおりとすることを決定しました。

(a) 美術館運営の効率化のため、「ダウンサイズ&リロケーション」を具体的なオプションとして検討し、 2024 年 12 月までに結論付けること

(b) 上記を基本的な方針としつつ、「ダウンサイズ&リロケーション」の実現性、ブランド価値向上の有効性、作品売却による経済価値等を総合的に勘案し、美術館運営の中止の可能性も排除せず、詳細検討を 行うこと

(c) 2024 年内に今後の美術館運営について決定した後、速やかに決定内容を実行するため、2025 年 1 月 下旬から現美術館を休館すること


(a)にあるように2024 年 12 月までに結論付けるとしている。拙速である。しかも株主総会は3月。DICの株主特典は美術館がらみで、その楽しみが株式保有の一つの理由である。ハゲタカがとりつく以前の株主は美術館とその環境に少なからぬ愛着があると思うし、DICに美術館をやめろなどという意見はほとんどなかったはずだ。

この拙速ぶりは香港のファンドが早期の利益を狙っているからとしか考えられない。所蔵品を売って特別利益を計上させ、自社株買い?所蔵作品そのものを狙っている可能性は?リストを公開したところなど何か匂ってくるものがある。リストを持って買い手の目星をつけているのでは????

取り憑かれて1年でこの急展開。日本の代表的な現代美術のコレクションが危機に瀕することになった。

繰り返しになるが、会社保有の簿価112億円の美術品の時価はどう考えても数十倍にはなっており、これに川村家からの預託と考えられる、ロスコーのシーグラム壁画やレンブラントなど2代目の時期に収集されたであろう、会社のコレクションより古い時代のコレクション370点が加わる美術館の所蔵品は、会社の時価を超えていてもおかしくはない。本当に稀有なコレクションで美術館閉館などということになれば、見ることができなくなるだけでも大きな社会的損失である。

この件はとことん問題化しなければならない。ファンドは単純に短期の利益狙いであって、作品を長期的にメンテナンスし保有することでのDICの長期的な利益などお構いなしであるだろうし、ましてや日本の社会や文化環境に対する配慮などまったくないだろう。

株式のもちあいを解消しろ!などというよくある話とは次元の違う、日本の社会的・文化的資産に関わる稀有な事例なのである。短期的な利益のみを追求するハゲタカ・ファンドに長い時間をかけてできあがったDIC川村記念美術館のコレクションが狙われているのである。日本がかつて豊かだった頃に成立した奇跡的なコレクションの命運が決まる重大事件だ。


オアシスマネージメントに関してはタイムリーな記事があったので以下一読願いたい。DICはひどいのに取り憑かれた。
https://gendai.media/articles/114339


この原稿は別のBLOGでも公表しています。
DIC川村記念美術館 休館 | hermanos (condenegra.blogspot.com)



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