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エリック・ドルフィーのアルバム④ 「アウト・トゥ・ランチ!」 エリック・ドルフィー     Eric Dolphy ‎– Out To Lunch! 


ドルフィーのレコードの中でこれが一番有名で、ということはこれが一番ポピュラーということになる。ブルー・ノートからのリリースであることがその大きな理由と思うのだが、ドルフィーの最後のスタジオ録音のリーダー作であることももう一つの理由であろうし、トニー・ウィリアムスの参加というのもあるかもしれない。

60年に録音されたNew Jazzの諸作にはバップのフィーリングが残っており、ブルースはブルースとしてのフォームが残っていたのだが、4年後のここに至るとリズム面・構成面で一定のフォームに乗らなくなり、且つ、曲全体を通して一定のカウントに乗って聴くことができなくなっている。
このような「ジャズ」はセシル・テイラーがサニー・マレーと'62年ごろに始めたやり方に起因するとされている。その証拠を聴くことができるのが、本ブログでも取り上げた「カフェ・モンマルトル」のライブ盤であるのだが、その影響がダイレクトに現れたアメリカでのスタジオ録音盤は本作と本作の20日前に行われたニューヨーク・コンテンポラリー・ファイブ(これもこのブログで取り上げています)のレコーディングあたりが最初期のものと思う。
NYC5のものはサニー・マレー入りであるから、これはまっとうな結果なのだが、本作はドラムがトニー・ウィリアムスであり、ドルフィーも含めたグループ全体がチャレンジとして「パルスを刻まない、テイラー〜マレー系のジャズ」をやるのである、という目的設定を持ったハズであり、且つ、それが今後のドルフィーの目指す「ジャズ」の方向で、ジャズの未来である、と参加メンバーは意気込んだハズだ。
残念ながらドルフィーはこの後亡くなってしまうので、その音楽が後々どのような展開となったのか?はわからないわけだが、ドルフィーはテイラーとの共演を熱望したということが伝わっており、この後盛り上がるフリー・ジャズのシーンに身を投じたであろうことは想像可能だ。
ただ、彼はヨーロッパに住む決意をしていたわけで、彼の存在によって、68年ごろから活発化する、ヨーロッパのフリー・ミュージックのシーンがもう少し前倒しになった可能性もある...と、このようなことを書いていてはキリがない。
ドルフィー・リーダーのスタジオ録音は63年録音の"Conversations"(FM308)というのがある。残念ながらぼくは持っていない(アナログ盤を)ので、よくよくは聴いてはいないのだが、60年から64年の間の唯一のスタジオでのリーダー作であるから、本作を予告するような内容になっているのか?という頭で聴くことにはなる。が、どれもスタンダード曲であるわけで、本作との関係云々はまあ無理筋というものだ。
本作中で個人的に気に入っているのはA2の"Something Sweet, Something Tender"であるが、この長い12音的なメロディーをユニゾンで演奏する曲を、以前であればブルース・フォーマットにして分かり易くしたと思う。それがここでは小節の切れ目のようなものがなくなり、一つの長く美しいメロディー・ラインに浸るように演奏する。この方向は「ジャズ」という枠での音楽体験として新しく、狙いとしてよく理解でき、音楽的に美しいと思う。
B1のタイトル曲はこのアルバムでのリズムのあり方を如実に示すトラックとなっていて、トニー・ウィリアムスのパルスを内在しながらも自在に変化していくリズムと、それにのるアンサンブルの緊張関係が面白い。
と、このアルバムに関してなんらか文章を書こうとすれば、だいたい上のような話になるが、楽曲に関しては短いが本人のコメントがライナーにあるので、それを読んでいただくと、リズムの話などよくわかるのではないかと思う。
ドルフィー、デイヴィス、ウィリアムスはこの一月後に揃って、アンドリュー・ヒルの"Point Of Departure"のセッションに参加する。それがドルフィーのアメリカでの最後のスタジオ録音となる。なんだかんだ、ブルー・ノートは抑えるところを抑えているわけでだ。


Tracklist

A1 Hat And Beard Written-By – Eric Dolphy 8:24
A2 Something Sweet, Something Tender Written-By – Dolphy* 6:02
A3 Gazzelloni Written-By – Dolphy* 7:22
B1 Out To Lunch Written-By – Eric Dolphy 12:06
B2 Straight Up And Down Written-By – Dolphy* 8:19

  • Recorded At – Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey

Credits

  • Alto Saxophone, Flute, Bass Clarinet, Written By – Eric Dolphy

  • Bass – Richard Davis (2)

  • Drums – Anthony Williams

  • Recorded By [Recording By] – Rudy Van Gelder

  • Trumpet – Freddie Hubbard

  • Vibraphone [Vibes] – Bobby Hutcherson

Notes
Recorded on February 25, 1964.


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