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「アフリカ・ブラス」 インパルスのコルトレーン 1 John Coltrane on Impulse 1 Africa / brass

*以下2017/07/07に他にブログに掲載していた記事に若干の手直しを加えたものです。今後インパルスのコルトレーンの作品に関して順次転載していきます。

本年2017年の7月17日がコルトレーンの50周忌となることに昨日気がついた。
50周忌となればコルトレーンの作曲作はパブリック・ドメインとなる。遠くまで来たものである。普通に言えば作家の死後50年経った作品=PD作はレトロな作品であったりするものだが、コルトレーンの特にインパルスの作品は未だにそのような評価を拒む強度を保ち、耳を傾ける者には必ず新しい体験を与えてくれる作品群である。

ということで、手持ちのインパルスのレコードを録音して、アップしついでに何かしら書いて行こうと計画している。一度オーネットが死んだ際に同様のことを企図して挫折してしまっているが、今回は、デビュー盤からなどと言う考えは捨て、時期を限ることでなんとかやっていこうと考えている。

ちなみに、多くはヴァンゲルダーカッティングのオリジナルに近い盤をortfon spu +C20 preという構成で再生し24bit 96kHz(録音機材はあまり褒められた機材ではありません…)で録音する手はずである。

2011年に発売されたレコードコレクターズの特集「インパルスとコルトレーン」のヴァンゲルダーへのインタビューによると、この時期彼も周囲もまだまだステレオへの意識がなかったとのことである。
2chのテレコはあり、楽器を振り分けて録音してはいるが、スタジオにモニターは1つしかなく、誰もステレオ・イメージを気にしていなかったし、聴いてもいなかったのだとの主旨の発言をしている。インパルスのステレオ盤を聴くとコルトレーンは左側に定位し、ドラムは右...という振り分けになっているのだが、これはステレオ・イメージの効果を考えてそうしたのではなく、2chのテープにそう録音したことの単なる現れであると言うのだ。ヴァンゲルダーはそのテープが1つしかないモニターからモノラル・イメージでプレイバックされた時のバランスに心血を注いでいたのであって、ステレオ・イメージを気にしたことはないのだと言っている。ある意味衝撃的な発言である。

よって、この時期のインパルスのステレオ盤はアンプにモノラル・モードがあればそれをオンにして、モノラル・イメージで聴くとヴァンゲルダーやミュージシャンがその場で聴いて納得したイメージになるわけである。であるから、ステレオ盤もモノラルでレコーディングしてみようかと検討中である。(C20にはモノラル・モードが存在するので...)
が、まずは文章を先行していこうと思う。

今回は1枚目「アフリカ/ブラス」。手持ちのものはステレオ盤だ。
この作品はThe john Coltrane Quartet 名義であるが、エリック・ドルフィー、フレディー・ハーバート、ブッカー・リトル他多数が参加し、さらに2本のベースを採用した編成の大きなブラス・アンサンブル作品となっている。が、名義に偽りはないというか、あくまでコルトレーン・カルテットを主役としフィチャーしていて、ドルフィー他、本来はソロを期待するところの面々が、この盤ではバッキングに徹している。そこが全体の統一感を保っている要素であるのだが、今となってはドルフィーのソロぐらいは入れて欲しいと思うのが人情で、残念なところでもある。

さて、コルトレーンはこの頃、アフリカの音楽を中心に様々なフォーク・ミュージックを聴いていたのだと言う。ライナーに彼の当時の発言が引いてあるのだが、これが興味深い。若干意訳だが以下。
「私には求めているサウンドがあり、この作品にそれが結実した。バンドにはドローンを求め、二本のベースを使った。一人は一つの音をほぼ一曲を通して奏で、一人はその周囲でリズミックなラインを奏でる。」コルトレーンはこの作品での二人のベース奏者、レジー・ワークマンとアート・デイビスの効果を強調している。このドローン的なベースの使い方はこの曲を始まりとして、この後も、例えば「インディア」のような曲でさらに実践されて行きコルトレーン・サウンドの一つの形となって行く。

ドローンの使用とともに強調されるのが「アフリカのリズム」である。前述したが、ライナーによると「コルトレーンはこの時期アフリカのリズムを吸収していった」とのことでコルトレーンの発言としておおよそ以下が語られている。
「アメリカのジャズにはアフリカのリズムの影響がある。ハーモニーの面でもジャズが借りたものはあるが、個人的にはそのリズムの面に『やられている』。4/4のようなスウィング感はなく、それらはリズムに多様性をもたらしている。」
この後コルトレーン・ジャズの代名詞的に「ポリリズム」なる言葉が使われるわけであるが、このライナーにはまだその用語は登場していない。コルトレーンはこの曲「アフリカ」のプレイバックを聴いて、頷き、以下のように語ったとされている。

「このようなリズムのバックグラウンドを持った曲をやったのは初めてのことだ。これまでは3/4と4/4でやってきている。全てにおいて、『アフリカ』はとても気に入っている。」

この「アフリカ」がインパルス移籍第一弾の1曲目となったわけだが、アトランティック時代とは明確に一線を画し、この後の展開を予感させる内容となっっているところがコルトレーンを考える上で興味深い。彼の『非凡』な所と言っても良い。
インパルス以降のコルトレーンは嫌いだと頑なに主張するジャズ・ファンが少なくないが、この曲は聴き易いながらもリトマス試験紙的な役割も持っていると思う。この際、やっぱり嫌いなのかどうか試しに再度聴いてみるのも良いのでは?と思う。

アルバムには他に、大編成による「グリーンスリーブス」と「ブルーマイナー」の2曲が入っているが、「グリーンスリーブス」は言ってみれば「マイ・フェイバリット・シングス」の焼き直しであり、6/8の2コードものだ。コルトレーンは「最も美しいフォーク・メロディー」とこの曲を評しているが、移籍に際して「マイ・フェイバリット・シングス」的な当時のコルトレーン的売れ線を取り入れた感はある。ソロ部分も抑制的で、次の「ブルーマイナー」でのより自由な演奏と比べるとストレスを感じるほどだ。「ブルーマイナー」はこの後の「インプレッションズ」にも通じるのだが、所謂典型的なコルトレーン曲で、ドルフィーのコメントによるとワン・テイクOKのヘッド・アレンジものとのことだ。

この2曲に関しては目新しさはないが、やはりこの時点のコルトレーンの充実ぶりを反映した好演であることは間違いない。さらに言うとアトランティック時代のもっさりした録音ではなくなった分「マイ・フェイバリット・シングス」よりも個人的な愛聴度は高い。今回インパルス時代に絞ろうと考えたのも、アトランティックの名盤とされる「ジャイアント・ステップス」(確かにオリジナル曲による好演で名盤)「マイ・フェイバリット・シングス」(こちらはスタンダード曲集、悪くはないが…)の録音がどうもいただけないというのが理由の一つである。

アトランティク盤はロックやソウルの世界で、後に名エンジニアとされたトム・ダウト氏絡みだが、この辺りの時代のトムさんものはオーネットのものも含め僕はどうも好きになれない。もちろん機材やスタジオの状況も大いに関係しているのだろう。

インパルス・レコードは60年設立で本格的にリリースを開始したのが61年。この「アフリカ/ブラス」はA-6というカタログ番号だからレーベルの6枚目のアルバムである。この一つ前のA-5がオリバー・ネルソンの「ブルースの真実」で内容も音もとても良い好盤である。

ジャズの60年代が始まったわけである。


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