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アーチー・シェップ1 「アーチー・シェップ・ビル・ディクソン・カルテット」 The Archie Shepp-Bill Dixon Quartet
Tracklist
A1 Trio A2 Peace
B1 Quartet B2 Somewhere
Credits
Bass – Don Moore (tracks: A1, B1, B2), Reggie Workman (tracks: A2)
Drums – Howard McRae (tracks: A2), Paul Cohen (8) (tracks: A1, B1, B2)
Tenor Saxophone, Liner Notes – Archie Shepp
Trumpet, Flugelhorn, Liner Notes – Bill Dixon
Recorded New York, October 1962.
なかなか珍しいオリジナル盤を手に入れたので覚書程度であるが、以下。
アーチー・シェップはセシル・テイラーに見出され、"The World of Cecil Taylor"('60)が初レコーディング。次がやはりセシルのユニットに参加する形での"In to The Hot"('62)。そしてこの盤が双頭ではあるが、初リーダー・レコーディングとなる。一方のビル・ディクソンはこれが初レコーディングのようだ。
ディクソンが記したライナーによるとカルテットはこのレコーディングの1年半前に結成され、グリニッジ・ヴィレッジをベースに活動していたのだが、夏(’62)にスカンジナヴィア・ツアーを成功させたのだという。
グループは完全な自由を演奏者に与えることをベースにし、その観点から楽曲も構成され、選ばれているとのことである。結果、このアルバムはディクソンのオリジナル2曲とオーネット・コールマンの"Peace"、そしてウェスト・サイド・ストーリーから"Somewhere"、で構成されている。この時点でのカルテットの音楽的な主導権はディクソンにあったのかもしれない。
シェップもディクソンもこの2年後、所謂「ジャズの10月革命」で中心的な役割を果たすニュージャズの第二世代でかつ中心の世代である。その二人のスタート地点としてこのアルバムは価値を持つわけであるが、結論から先に書くと、どうもモッサリした出来で、目を見張るポイントが皆無とは言わないが少ない。
この盤がリリースされた62年はオーネットのフリー・ジャズが発売された翌年であり、オーネットの活動の最初のタームが収束に向かった頃合いである。ニュー・ジャズ的にはトップ・ランナーがある程度走った後になんとなくまったりし、停滞しだした時期で、次なる形を模索期であったように感じる。
さて、この盤の話に戻る。
オリジナル曲"Trio"は「3つのコードだけで構成されている」と注記されているが、この時期流行りのフラメンコ的なベース(マイルスものを思い浮かべていただきたい)に対して各々がフリージアン・スケールをベースにインプロヴァイズする体裁のもので、テーマのメロディーは「アフロ・ブルー」もどき。ディクソンのソロは大まかに調性に沿っており特別目新しくはない。シェプの方は語り口にある程度の個性を感じるがまあ普通。
一転、オーネットのカヴァー"Peace"は興味深い。このトラックでは当時コルトレーンのグループにいたレジー・ワークマンが参加しており、テーマから離れた途端に、調性の不明な世界に突入する。そこにソリストが乗ってくるわけであるが、まずはディクソンの音数をしぼったソロはベースラインとの緊張関係が心地良い。シェップはテーマを織り込みながらも自由なラインを奏でこれもなかなか興味深い演奏である。その後にワークマンの長めのソロがある。
"Quartet"は「ホール・トーン・スケールをベースにした」のだと注記されている。アップ・テンポで、ビル・ディクソンの演奏に関してはフリーというよりは新主流派的。シェップはトーンを探るように入り、途中ダミ声調になる、が、特に冴えた感じはない。
"Somewhere"はイルで壊れた感じのカヴァーで、シェップはこの後「イパネマの娘」のカヴァーを"Fire Music"のB面でやっているが、それと同系統の態度のもの。パンク・ロックの頃にシド・ヴィシャスが"My Way"のカヴァーをやったが、態度的にそれに通じるものがある。シェップのレイジーなソロが良い。
シェップにとってもディクソンにとっても初期のレコーディングであり、それなりの意気込みはあったのだと思うが、何故か過渡期的な空気があり、全体に熱が欠如していて面白みに欠ける。録音も良いとは言えない。強いて言えば"Peace"が聴きどころだろうか?
オリジナルは62年の発売であるが、70年にBYGから"Peace"というタイトルで再発売されていて、日本でも72年にCBSから発売があったようだ。
シェップとディクソンに関しては、"Imagine The Sound"(’81)という日本でもDVDで発売されたフリーのシーンを取り上げた映画があるのだが、この2人とテイラー+ポール・ブレイが主たる出演者であった。このフィルムはかなり懐古調であったが、ディクソンが饒舌なのと、シェップの真摯なパフォーマンスが印象に残っている。機会があれば見ていただきたい。