ファラオ・サンダースのレコード② 「タウィッド」 ファラオ・サンダース Pharoah Sanders – Tauhid
コルトレーン・グループに在籍中の66年に録音された、2ndリーダー作。
B2はまさにその当時のコルトレーン・グループの延長のような演奏で、多くの期待通りの内容であると思う。これがアルバムの聴きどころになるわけであるが、ただ、他の2曲の方がファラオ・サンダースのこの後の展開を予告しているような内容で興味深い。
コルトレーンとの共演におけるファラオはコルトレーンのコンセプトの上で演奏していたのであり、決して自分の志向を明瞭にしていたわけではないことが、A1,B1からわかる。
この2曲はコルトレーンとの共演で実現した世界とはまた異なった音楽世界であり、この部分この後のファラオの音楽的展開の基調を形成していくことになる。ファラオの作品はレコード店に行くとフリー・ジャズではなくスピリチュアル・ジャズとして分類されているのであるが、ソロの1stをそのように分類することはなく、その分類の始まりの一枚があるとすれば本作ということになる。
本作のライナーはナット・ヘントフであり、いつものように本人に取材し書かれたものであるが、それによるとファラオは「一者としての創造主の話しをしている宗教ならばすべての宗教を信じている」「自身のことを知れば知るほど存在の根が何かを知ることができる、何故なら人間は神で神は人間なのだから」「訓練さえすればあなたは望んだことをなんでもできるようになる。あなた自身が宇宙の鍵なのだから」etc..まさにロマン派のドイツ観念論者のような考えを表明している。
この考え方のベースによって実存主義的なフリー・ジャズとは一線を画すスピリチュアル・ジャズなる区分けがその後形成され、そこに分類されていくわけであるが、以上の発言を聴くと、この分けが成立するのも頷けるところで、分ける必要がある、とさえ思う次第だ。
A面の"Upper Egypt & Lower Egypt"はライナーによると、サンダースの長期間にわたるエジプトの歴史や宗教やエジプトの人々の精神生活へのアプローチのあり方などの研究の成果を表現したものとのこと。
ファラオを名乗るだけあって、随分な研究をしている様子なのである。ただこの曲自体はエジプトの音楽モデルに依拠するといったものではなく、サンダースが懐胎するにいたった個人的な考えや感情の延長であるとのことだ。
B1の"Japan"は66年の来日時の印象を表現したもので「日本で出会った多くの人々のスピリチュアル・クォリティに感銘を受けた」とのこと。不思議な東洋的メロディーを持ったトラックに仕上がっている。
B2はこの当時のファラオにコルトレーンからの流れのファンが期待するものが見事に実現している作品で、一番の聴きどころと思う。
コルトレーンとはエクスプレッションのセッションを翌年に行い、オラトゥンジ・センターのライブで共演するわけであるが、すでにこの段階でコルトレーンとは違った自分の進むべき道を掴んだファラオ・サンダースの姿がここにキャプチャーされていると思う。
コルトレーンの死で彼の音楽が変わったわけではなく、その前からその後の活動のベースはあったことを証言している作品である。
Tracklist
A Upper Egypt & Lower Egypt 17:00
B1 Japan 3:29
B2 Aum / Venus / Capricorn Rising 14:52
Credits
Pharoah Sanders, tenor, alto sax, piccolo, voice
Dave Burrell, piano
Sonny Sharrock as Warren Sharrock, guitar
Henry Grimes, bass
Roger Blank, drums
Nat Bettis, percussion
Producer – Bob Thiele
Recorded at Englewood Cliffs, NJ, Van Gelder Recording Studio on November 15, 1966.