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フランク・ライト 「ユア・プレイヤー」 The Frank Wright Quintet "Your Prayer"
Tracklist
A1 The Lady 9:04 A2 Train Stop 7:32 A3 No End 6:49
B1 Fire Of Spirits 12:31 B2 Your Prayer 15:42
Credit
Alto Saxophone – Arthur Jones
Tenor Saxophone – Frank Wright
Trumpet – Jacques Coursil
Bass – Steve Tintweiss
Drums – Muhammad Ali
Engineer [Recording] – Richard L. Alderson*
Recorded in New York City, 1967.
これは愛聴盤。アメリカでフリー・ジャズが熱かったころの高揚感があり、フランク・ライトの音楽が、まずはここで現れたと言える作品と思う。Discogsのこの盤のページを見ると、ベースのスティーブ・ティントワイスがコメントを投稿しており、それによると本作のレコーディングは67年のイースターの日曜日(3月26日)とのこと。
前回取り上げた初リーダー作"Frank Wright Trio"のメンバーがどうもしっくりこなかったのか、ここでメンバー・チェンジが行われる。ラシッド・アリの弟で本作以降ライトと長らく行動を共にするモハメド・アリの回想によると、
「フランク・ライトがコルトレーンに電話をかけてきて、ニューヨークでドラマーを探していると言っていた。当時、彼はESPレーベルでトム・プライス(ドラム)、ヘンリー・グライムス(ベース)と録音したばかりだったけど、次のレコーディングでは違うバンドを組みたがっていたんだ。そこでコルトレーンが「ムハンマドを試してみたら?」と彼に紹介してくれた。」**
とのこと。以下にアリのインタビューがある。
アリは当初マックス・ローチをアイドルとしていたのだが、幼馴染のサニー・マレーが家にやってきて、当時セシル・テイラーと取り組んでいた"New Thing"を実際にデモンストレーションして彼にみせたのだという。アリは「これは自分にも感じ取れるし、共感できるものだ」と思ったとのこと。兄のラシッドもこの時に初めて"New Thing"的ドラミングに触れ、感化されたとのことで、その後彼がエルビン・ジョーンズに代わりコルトレーンのグループに入ることを考えると、改めてこの時点でのマレーの存在の大きさを感じる。
アルトのアーサー・ジョーンズ、トランペットのジャック・コーシルはともにBYGでの録音で知られている。2人とも個人的に好みのアーティスト。特にコーシルは2000年代に入ってジョン・ゾーンのレーベルから作品を出していて、これがとても良い。
コーシルは1938年生まれ。マルチニークにルーツのある両親を持つパリ生まれのフランス人で2020年に亡くなった。そのおりのThe Wireの追悼記事を見つけたので長めだが引用しておく。
「9歳でバイオリンを習い始めたが、試行錯誤の末、10代でコルネットに転向。ニューオーリンズ・ジャズのシドニー・ベシェやアルバート・ニコラスに興味を持ち、サックス奏者ドン・バイアスのライブ・パフォーマンスは彼に強い影響を与えた。また、現代クラシック音楽、特にアルノルト・シェーンベルクやアントン・ヴェーベルン、さらにはピエール・シェフェールの実験的な音楽にも関心を持っていた。1958年、彼は脱植民地化の進むアフリカへ向かい、3年間モーリタニアやセネガルを旅した。この間、ネグリチュード運動の作家であり、セネガル初代大統領であるレオポルド・セダール・サンゴールの側近として活動し、西アフリカの各国首脳を訪問する機会を得た。その後フランスへ戻り、文学と数学を学びながら教師として働いた。」***
とのことで、その後、レコードで知ったフリー・ジャズに魅了され65年にNYにやってきた。Avenue Bと9th Streetの角の建物に住みウォーホールで有名な"The Dom"でバーテンダーなど雑用をしながら暮らしていたところ、66年に同じ建物に住むサニー・マレーに誘われセッションに参加するようになり、さらにこれも同じ建物に住むフランク・ライトのレコーディングに参加することになったという。
「フランク・ライトは同じ建物にいたんです。少なくとも、私はいつも彼をそこに見かけていました。ほぼ毎日のように一緒に演奏していましたね。彼はよく一人で部屋で1時間くらいブロウしていて、私たちが「何をしているんだい、フランク?」と聞くと、彼は「チューニングしてるんだよ」と答えるんです。彼にとってのチューニングとは、ただ一人で吹き続けることでした。それを彼は毎日やっていましたね。私たちはできる限り一緒に演奏しようとしました。なぜなら、私たちは『一緒に呼吸すること』(breathe together)を目指していたからです。それが私たちの『統一』(unity)のコンセプトでした。」*
コーシルが最近まで活動を続けたこともあって、関連の情報がライトや他のメンバーよりも取りやすいという事情があって、コーシルの紹介が長くなってしまったが、アリとコーシルの証言からこのアルバムに至る大体の経緯が見えたと思う。
さて、内容であるが、駆り立てるようなモハメド・アリのドラムがフロントの3人を煽り、テンションがどんどんエスカレートしていく快感がアルバムを通じてある。メンバー全員30前後。当時"New Thing"と言われたこの手の音楽に大きな影響を受けてプレーヤーを志した、いわゆるフリー・ジャズ第二世代である。レコーディングのチャンスを与えられ、フレッシュ且つハイ・エナジーなあり方を余す所なくこのアルバムで表現したと思う。
A1、A3はライトが後々にも使いまわすメロディーを持ったテーマの合奏から始まり、ソロを回していく典型的な"New Thing"。特にA1はジョーンズ→コーシル→ライトとソロがまわるのだが、どれも素晴らしい。冒頭でソロを取るジョーンズのアルトは前々回紹介したチャールズ・タイラー(as)などのアイラー派とは一線を画し、オーネットのようなトーンの美しさ、温かみがある。この辺がアイラー派の極北のようなライトのソロと好対照でこのアルバムの聴きどころとなっている。ライトに関して言えば、完全にスタイルが技量と一致したような一つ抜けた感じがある。コルトレーンのアセンションのセッションに誘われたのだが、技量不足を理由に自ら断ったという過去のあるライトなのだが、ここではそのような不安は一切感じさせない。
A2はアリとライトの激烈なデュオで、 ラシッド・アリとコルトレーンのデュオ"Interstellar Space"を彷彿とさせる。タイトルも"Train Stop"。"Interstellar Space"の録音が67年の2月22日でこれが3月26日であることを考えると、モハメドは兄のラシッドからセッションの話を聴いていた可能性もある。
B1"Fire Of Spirits"はハイトーンの連打から始まるのだが、始まり方がアッセンションに似ていなくもない。途中と最後にサイレンのような合いの手が入る。ライト→コーシル→ジョーンズ→ベースのティントワイス(後半アルコでソロを取る)→アリとソロが回り終結へ。
B2は日本人的には冒頭に「さくらさくら」のようなメロディーが奏でられることもあって引き込まれるのだが、それがどんどん捻れて行く様子が面白い。アルバム内で唯一のスローテンポなトラックで、メロディーと音の選択に注意が向き、ライトの持ち味がよくわかる。途中の雄叫びを上げながらの展開など、この後のライトのスタイルのスタート・ポイントとも言える熱演。その後コーシル→ジョーンズ→ティントワイス→アリとソロが回り、タイトルが"Your Prayer"であるから祈祷なのか、全員でのうめき声がしばし続き、テーマに戻って終結する。
どれも、聴いているといつの間にか体を捩りながら手に汗握っている熱演で、一般的に想念されるフリー・ジャズの典型といえるパフォーマンスと思う。個人的なおすすめはA1とB2。特にB2はこの後に続くライトの原点のようなパフォーマンスである。
参考:
*Always in Trouble An Oral History of ESP-Disk, the Most Outrageous Record Label in America by Jason Weiss
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