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セシル・テイラー10 「ソロ」 "Solo" Cecil Taylor


Tracklist
A -Lono- 1 Choral Of Voice (Elesion)   2 Lono   B1 Asapk In Ame-1st Layer Part Of Indent-Indent   B2 1/2 Of First Layer   B3 2nd  1/2 Of First Layer

Credits

  • Piano – Cecil Taylor

  • Producer – Cecil Taylor, Toshinari Koinuma

  • Engineer [Recording] – Okihiko Sugano

Notes
Recorded on May 29, 1973 at Iino Hall, Tokyo, Japan.

セシル・テイラー名義のスタジオ録音は66年のブルー・ノートのもの以来となるから7年ぶりということになる。それが来日公演のおりに録音されたこのアルバムで、ソロ・ピアノものだ。同時にライブ盤「アキサキラ」も制作された。内容的には「アキサキラ」の上物なしバージョン、別の言い方をすると、このソロ・ピアノをベースに他がここに加わり来日時のライブ・パフォーマンスがあった。
このアルバムは内容も良いが、録音が気に入っていてよく聴く盤である。エンジニアはオーディオ雑誌でお馴染みの菅野沖彦氏。セシル・テイラーのピアノの素晴らしさをどう伝えたら良いか?よくよく考えられた録音だと聴く度に感じている。
ちょうど演奏者の正面のポジションで音を聴いているようにミックスされており、低音(左手)→高音(右手)をR→Lに配置していて、なおかつかなりオンで録音されている。であるからセシルのタッチの様子が大変よくわかる。「鍵盤の上を踊るよう」と評されることの多いセシルの演奏であるが、それが目の前に見えるような録音だと思う。
「演奏者の正面のポジション」と書いたが、音の見え方に関しては「ピアノの中が見えるポジション」で、という感じの近さがある。にもかかわらず、キンキンしたところがなく、音質はウッディーな感じで暖かく聴き良い。
ソロ・ピアノに関しては「Silent Tongues」「Garden」「For Olim」「The Willisau Concert」などライブ盤で気に入っている録音がたくさんあるし、それはそれなのであるが、レコーディングの環境としてはどうしてもこの盤に比し劣る。また、「Garden」「For Olim」は演奏は良いのだがチャンネルが逆であったり...などなど慣習の違いなのかもしれないが不思議な点がある。
ピアノの音というのは本当のところどんな音として録音すると良いのだろう?というのは永遠の問題だ。そもそも、ピアノはどこかに置かれるわけで、例えばホールに置かれればホール・トーンとの関係が出てくる。スタジオで録るにしてもそのスタジオの環境がある。スタンウェイなのかベーゼンなのかベヒシュタインなのか、ファツィオリなのかヤマハなのかetc..、メーカーの違いもあるし、年代や個体の個性もある。
ライブでセシルの演奏に触れた少ない個人的経験の中では、最後ということもあったが京都コンサートホールの小ホールは素晴らしい音だった。素晴らしかったので後で本人にその旨話したところ、ピアノを"Fix"したのだと言う。京都賞の滞在期間中、宝ヶ池のホテルの部屋にスタンウェイのハーフ・サイズを入れて弾いていたのだが、その個体が大変気にいって、当日会場に持ち込んでもらった、とのことだった。もちろんホールとの相性も良かったのだろうし、当日僕が座ったポジションも良かったのだと思う。
会場に着いた時にハーフ・サイズのピアノが置いてあり、さらに開演が遅れたので「これはピアノのことで何か一悶着起きているのではないか?」と心配していたら、実は逆だったのである。
この場合はホールのしかるべき位置で聴いた体験であって、このアルバムの録音の行き方とは随分違うわけである。ぼくはクラッシックのピアノのレコードも多く聴くがクラッシックのピアノはどちらかというとホールのトーンを活かす方向のものが多く、このような近接感のあるレコーディングは少ない。例えばグラモフォンのミケランジェリやアルゲリッチはスタジオ録音であってもエアがあり近接感はない。フィリップスのアラウが近かったような記憶があり、今回引っ張り出して聴いたがこれも違う。デッカのバックハウスのステレオ盤なども好きな音なのだが、今回のものとは方向が異なっている。
あまり最近の録音は聴かないので最近の傾向はわからないが、やはりこの盤はソロ・ピアノの録音としては上述のクラッシックのものとは別のコンセプトで録られている。ただセシルの録音との比較で行くと「Silent Tongues」や「The Willisau Concert」は左右の振り分けが同じで近接のマイクを活かした録音ではある。「Silent Tongues」はこのアルバムより前の録音であるので、ジャズのソロ・ピアノではまああるやり方かもしれない。
僕はジャズのソロ・ピアノは他にモンクぐらいしか聴かない上それらはモノラル盤であるので、比較にならない...などなど、長くなってしまったが、このアルバムを聴く度に当時セシルの来日にかかわった人々は良い仕事をしたな〜と感嘆しきりなのである。


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