オーネット・コールマンのレコード 09 「タウン・ホール1962」The recordings of Ornette Coleman No.09 "Town Hall 1962"
ここからメンバーが全て入れ替わり、チャールズ・モフェットとデヴィッド・アイゼンゾンとのトリオが始まる。(https://en.wikipedia.org/wiki/Charles_Moffett)(https://en.wikipedia.org/wiki/David_Izenzon)
track list
A1 Doughnut 9:00
A2 Sadness 4:00
A3 Dedication To Poets And Writers 8:50
B The Ark 23:24
Credits
Performer [Alto Saxophone] – Ornette Coleman (tracks: A1, A2, B)
Performer [Bass] – David Izenzohn* (tracks: A1, A2, B)
Performer [Percussion] – Charles Moffett (tracks: A1, A2, B)
Cello [Uncredited] – Kermit Moore (tracks: A3)
Viola [Uncredited] – Julien Barber (tracks: A3)
Violin [Uncredited] – Nathan Goldstein (tracks: A3), Selwart Clarke (tracks: A3)
Engineer [Recording] – Jerry Newman
表題通りNYタウンホールでのコンサート(1962年末)の録音でこれがオーネット初のライブ盤となる。同時進行的に当時の状況を考えてみると、このモフェット、アイゼンゾンとのトリオのレコードは、サントラという形でのスタジオ盤はあるものの、他は”クロイドン・コンサート”、”ゴールデン・サークル”とライブ盤のみである。
一般的にオーネットの入り口としてこのトリオから、「ゴールデン・サークル」から入るというのがパターンであると思うし、それで良いと思うのだが、スタジオ盤がないというのが面白いところだ。「チャパカ組曲」は個人的には愛聴盤であるが、これはサントラとして録音されたという経緯を持っている。だから「オーネットは最初何を聴けば良いでしょう?」という質問を受けたとして、「チャパカ組曲」とは答えにくい。またこの盤と「クロイドン」は弦楽四重奏、木管五重奏が入っているるという事情があって、やはり「ゴールデン・サークル」を薦めることになる。ブルー・ノートは上手いことやっているわけだ。
さて、前述のようにメンバーが一新されたわけであるが、別の言い方をすると、この時期に以前のメンバーがオーネットの元から去っていったということにもなる。理由は活動が不活発になっていた、ギャラの安いライブを断っているうちに仕事がなくなった、などなど語られている。ヘロイン問題も示唆されている。そのあたりの事情は僕にはわからない。が、さらに、オーネットはタウンホールの後2年ほど表立った活動をしなくなる。トリオを組んだばかりであるにもかかわらずである。アトランティックとの契約もなくなり、このアルバムも録音は62年であるものの発売は65年である。当初ブルーノートから2枚組で出るはずであったのだが、出なかったという事情があるらしい。
62年ごろというのはある意味過渡期であったのかもしれない。64年も過ぎてくるとコルトレーンの動向もあり、俄然「フリー」な世の中にに変わって行き、結局、オーネットの活動再開もそれに乗る形で行われる。このタウン・ホールのコンサートは「オーネットが自腹でホールを借り」という事情が良く語られるわけで、商業的に恵まれなくなった時期であったのだろう。
上記のような事情を持つプロダクトであるが、内容は良い。まず、トリオになったことで、今まで段取りとしてあった、テーマの合奏部分がなくなったのがとても良いし、ソロを回す必要もなく、ひたすら吹きまくることになったのも良い。また、A2"Sadness"に現れるのだが、ホール空間に広がっていくオーネットのロング・トーンの美しさは素晴らしい。これは、この録音で初めてキャプチャーされたものであり、この後のクロイドン・コンサートでも冒頭にフィーチャーされるが、スタジオ録音では捉えきれていなかたオーネットの絶対的な魅力がここにある。
チャーリー・ヘイデンが最初にオーネットの演奏を聴いた時の印象として「輝かしい光が部屋中を照らしたようで、人間の声も同然のサウンドだった」と、そのトーンの美しさに感激した旨を語っているが、そのイメージが伝わると思う。
さらに、モフェットもアイゼンゾンも良い。特にアイゼンゾンはアルコ・ボーイング中心の演奏で、ジャズのベーシストとは一線を画すアプローチである。それがはまっている。
A3はオーネット作曲の弦楽四重奏曲である。例えば「バルトークの弦楽四重奏曲4番あたりと似ているところがある」などと言えなくもない。が、あまり意味をなす比較にはならないと思う。
興味深いとすれば、クラッシック畑のアイゼンゾンはこの作品にどのぐらいかんだのか?そもそもアイゼンゾンと知り合ったのはオーネットがこのような作曲への指向を持ち、何らかアカデミックな世界へコンタクトを取ったからではないか?といったところだろうか。クロイドン・コンサートのレコードもA面はオーネット作曲の木管の五重奏曲で始まる。オーネット自身もバイオリンを弾き出したりもしている。一方ならぬ弦楽多重奏への興味がこの時点のオーネットにあったのであろう。
B面はトリオによる"The Ark"。アイゼンゾンのボウイングとオーネットの絡み合いで始まり、途中パルスが入りだし、リズムの変化があり、ドラム・ソロもありと聴きどころの多い演奏であるが、7:3ぐらいの比率で行われるアイゼンゾンのアルコ・ボウイングと指弾きのバランスが今までにない在り方で、オーネットとの絡みも含めて新鮮である。
さて、前述したようにこの後オーネットの活動は不活発になり、それに反し世の中的にはコルトレーンの動向もあって、「フリー・ジャズ」的音楽が市民権を得ていく。そして2年後からこの同じトリオでの活動が再開する。オーネットはその後活動の場をヨーロッパに求め、作品的には「クロイドン・コンサート」、「ゴールデン・サークル」といった前述した名ライブ盤にその姿を刻むこととなる。
次回は「チャパカ組曲」。