見出し画像

アルバート・アイラー 「スピリチュアル・ユニティー」2 "Spiritual Unity" Albert Ayler

Tracklist
A1 Ghosts: First Variation   A2 The Wizard
B1 Spirits   B2 Ghosts: Second Variation
Credit
Bass – Gary Peacock
Drums – Sunny Murray
Saxophone, Composed By – Albert Ayler
Recorded in New York City, July 10th, 1964.

さて、また経緯に戻る。

マレーの取り計らいもあってアイラーはテイラーのグループの一員となりコペンハーゲンのクラブ、モンマルトルに出演。
その後63年にアメリカに戻ることになる。当初地元クリーブランドに戻ったが、ニュー・ヨークに出て、テイラーのグループの一員としていくつかクラブ出演があり、さらに大晦日にリンカーン・センターでのホール・コンサートに出演。(これは録音されたようではあるのだが、日の目を見ていない。セシル周辺の事情を考えると、そろそろ出て来そうなタイミングではある)その後64年1月のファイブスポットでのイベント出演を最後にテイラーとの共演はなくなる。***この時点で初のリーダー・セッションとなる“Spirits”のレコーディングの話はできていたはずで、アイラーが自分のグループを率いる流れとなっていく。

“Spirits”のセッションは64年の2月24日にDebutがセットした2つのセッションのうちの一つで、もう一つは後に"Swing Low Sweet Spiritual”として発売されることになるいわゆる"霊歌"=" Spiritual”をストレートに演奏するセッションである。そちらは後述する。

“Spirits”のセッションはアイラーが初のリーダー・セッションと言えるもので、セシルのユニットからサニー・マレー(ds)、ヘンリー・グライムス(b)が参加、そこに、アイラーのクリーブランドの仲間であるノア・ハワード(tp)とアール・ヘンダーソン(b)が加わったメンバーで録音された。

余談となるが、セシル・テイラーの録音はユニット・ストラクチャーズ(66)までない。これにはギルドの設立など当時の事情が諸々絡んでいるのだが、結果サニー・マレーとのスタジオ録音がまだマレーがタイム・キープしている”Into the Hot”のみという結果になってしまっている。アイラーとの諸作で活きることになるマレーのドラミングはテイラーと練り上げたものであるから、テイラーのユニットでのスタジオ録音盤が良い形で残ると良かったのだが… さらに調べてみるとヘンリー・グライムスとマレーの録音もこの“Spirits”と”Into the Hot”のみで長年テイラーのグループで活動した二人のコンビもそれ以外では聴くことができない。ただ”Into the Hot”での3曲は大変よく構成された作品。この“Spirits”はアイラーのコンセプトが初めて具現化された作品である。ある意味対照的な2作となっていて、あまり線引きをするのは好みではないが、一般に言われるフリー・ジャズとスピリチュアル・ジャズの対比の例として聴くと面白いかもしれない。

(2,4,6がセシルテイラーユニットです)

アイラーのこれ以前のレコーディングではラジオのための録音だとされる"My name is Albert Ayler"が著名だが、オーソドックスなバッキングの上に変わったテナーが乗っているといった風情で、それなりに面白いのだがアイラーの音楽を表現しているとは言い難い。

その点”Spirits”はアイラーの音楽の現れを印象づける内容である。不満があるとすれば、このセッションの目玉(後からみると)である”Holy Holy”のベースがアール・ヘンダーソンであること。この曲のメイン・メロディーはこのあと”The Wizard”と名前を変え、”Spiritual Unity”に収められるが、途中では”Ghost”のメロディーも顔を出す。

個人的には“Witches And Devils”と“Saints”(これも次作で”Spirits”と名前を変えるメロディーからなる)のいつ止まってもおかしくないようなスローな演奏の2曲がおすすめで、もちろんこのアルバムのタイトル曲の”Spirits”も良い。この曲も何故か次作で別のメロディーを持った別曲になったわけだか、タイトルがタイトルだけに興味深い。ノア・ハワードは本作が初レコーディングであるが、アイラーとのコンビでは後のドン・チェリーよりも合っているのではないかと思わせるパフォーマンスとなっている。

また、当時は発売されなかったが同日に録音され、後に発売となった"Swing Low Sweet Spiritual"はいわゆる"霊歌"=" Spiritual”をストレートに演奏する、アイラーの根っこのようなものを感じる内容だ。

アイラーのメロディーを「アルカイック」と形容する例をよく見るが、「これは随分古くから存在するメロディーではないか?」と思わせる要素があり、それがアイラーのフリー・ジャズという範疇を超えたポピュラリティー(もちろん現時点のだが)の要因となっているように思うが、そのことが同日に録音されたこの2つのセッションに現れており、この楽曲の方向性もこれ以前の録音にはみられないものであったわけだから、この2つのセッションで満を持してアイラーが自身の音楽をそのルーツと共に明らかにしたのだというふうにみることもできると思う。この辺りにこのセッションをセッティングしたDebutのOle Vestergaardがどの程度関与したのかがまた興味深いところだ。

同時期のジャズはテーマの演奏が軽視され、インプロヴィゼーションに比重が行くようになって行ったが、アイラーの音楽は違っていて、このテーマ部分が多くの場合熱演される、ということも付け加えておきたい。

続く

参考文献
*My Name Is Albert Ayler(2005) written and directed by Kasper Collin
**Always in Trouble: An Oral History of ESP-Disk', the Most Outrageous Record Label in America(2012) Jason Weiss
***Holy Ghost: The Life And Death Of Free Jazz Pioneer Albert Ayler (2022)Richard Koloda

いいなと思ったら応援しよう!