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ファラオ・サンダースのレコード⑧ ファラオ・サンダース 「ジャーニー・トゥー・ジ・ワン」Pharoah Sanders ‎– Journey To The One 

レア・グルーブ、アシッド・ジャズの時代を経た現時点で、ファラオ・サンダースの一番ポピュラーなトラックがこのアルバム収録の"You've Got To Have Freedom"であろうことに、あまり異論は出ないと思う。このトラックとガリアーノのカヴァー"Prince of Peace"によって若い層(といってもすでに40代以上だ)がファラオの名前を知るようになり、それを入り口に諸々過去の作品が聴かれたのであるから、フリーからのファンがあまり手を出さないであろうこの盤の果たした役割は大きい。
本作はTheresa Recordsでの1枚目となる。ファラオは80年代を通してこのレーベルに在籍し、他に"Rejoice"、"Live!"などの人気盤をリリースしている。Impulse!との契約が73年まで。その後76年India Navigation、77年、78年にAristaにてレコーディング・セッションを行っているが、ショットでアルバムが出たのみ。ここに至って長く在籍できるレーベルに出会ったわけである。
Theresa Recordsはカリフォルニアが本拠で、70年代半ばから90年あたりまでリリースがある。この作品にクレジットのあるAllen Pittmanと、次作の"Rejoice"で声を聴くことのできるKazuko Ishida(本作に名前を冠した曲もある)の運営するレーベルで、wikiによると90年代のどこかでEvidence Musicにカタログを売り渡している。レーベル名はマザー・テレサから来ているのでは?と推察されるがさだかではない。
さて中身であるが、テーマはアルバム・タイトルから分かるように一貫して変わっていない。D1など"Think about The One who made us all"と女性コーラスがリフレーンする。"You've Got To Have Freedom"はタイトル的には実存主義のスローガンのようにもとれ、そのつもりで予備知識なしにこのアルバムを聴くと「"The One"が我々を作った」という世界が展開し面食らうことになる。この世界にどうにもついていけなく感ずる向きもあると思うが、まあ、このあたりはどうにでも相対化可能だ。そもそも"You've Got To Have Freedom"も歌詞は"la la la Freedom. la la la Peace & Love"だ。イントロに現れるファラオのシャウトによってこのあまりにもストレートな歌詞が安易に聴こえなくなるのだから、音楽は不思議なものである。
このレーベルでの次回作"Rejoice"にも見られるが、ここへきてコルトレーンへの言及が増えたように思う。それは曲のチョイスや、次作では歌詞にも現れるのであるが、トーンにも現れていて、例えば本アルバムのC3などはまるで「バラード」の頃のコルトレーンが吹いているようだったりする。これはファラオ・サンダースの加入によりコルトレーンが離れていった世界である。何か本人の中でフェーズが変わったのではないかと思うほどの変化である。
また、この時期の西海岸はフュージョン全盛期である。それもコマーシャルなフュージョンの全盛期だ。一方にパンク以降の流れがあったわけだが、西海岸はそこから取り残された辺境に見えていた時代だ。周囲の音環境がそういうものであったわけで、その空気感がどうしてもこのアルバムのトラックに細かく漂っている。まあ、時代の音の傾向と言ってしまえばそうかもしれない。
と雑感を書いてくると、アルバム全体としてはどうにもポジティブな評価になってこないのだが、ファラオのトーンに関しては何か一つ豊になった感がある。それはストレートに調性のあるメロディーを衒いなく吹いていることも大きい。もともと衒いなどとは無縁の人のようにも思うが、衒いのないことに衒いがなくなったというか、何か確信に満ちているのである。昔馴染みの西海岸に帰ったこと、考えや音楽に諸手を挙げて賛同してくれるスタッフに囲まれたこと、など周囲の環境の変化もあったのだろう。
若干「祭り上げられ感」があって微妙なのところはあるのだが、今の時点からすると、このアルバム、というよりも"You've Got To Have Freedom"によって若い世代による再評価があったわけであるから、本人にとっても転機となるようなたぐいの一枚であったのではないだろうか。

Tracklist

A1 Greetings To Idris
Bass – Ray DrummondComposed By, Arranged By – Pharoah SandersDrums – Idris MuhammadGuitar – Carl LockettPiano – John HicksTenor Saxophone – Pharoah Sanders
7:25
A2 Doktor Pitt
Bass – Ray DrummondComposed By, Arranged By – Pharoah SandersDrums – Idris MuhammadFlugelhorn – Eddie HendersonPiano – John HicksTenor Saxophone – Pharoah Sanders
12:03
B1 Kazuko (Peace Child)
Composed By, Arranged By – Pharoah SandersHarmonium, Wind Chimes – Paul ArslanianKoto – Yoko Ito GatesTenor Saxophone – Pharoah Sanders
8:05
B2 After The Rain
Composed By – John Coltrane Piano – Joe Bonner Tenor Saxophone – Pharoah Sanders
5:32
B3 Soledad
Composed By, Arranged By – Pharoah SandersHarmonium – Bedria SandersSitar – James PomerantzTabla – Phil FordTenor Saxophone, Tambura – Pharoah Sanders
4:53
C1 You've Got To Have Freedom
Bass – Ray Drummond Composed By, Arranged By – Pharoah Sanders Drums – Idris Muhammad Flugelhorn – Eddie Henderson Piano – John Hicks Tenor Saxophone – Pharoah SandersVocals – Bobby McFerrin, Donna (Dee Dee) Dickerson*, Ngoh Spencer, Vicki Randle
8:03
C2Yemenja
Bass – Ray DrummondComposed By, Arranged By – John HicksDrums – Idris MuhammadGuitar – Carl LockettPiano – John HicksTenor Saxophone – Pharoah Sanders
5:32
C3 Easy To Remember
Bass – Ray DrummondDrums – Idris MuhammadPiano – John HicksTenor Saxophone – Pharoah SandersWritten-By – Lorenz Hart, Richard Rodgers*
6:22
D1 Think About The One
Bass – Joy JulksComposed By, Arranged By – Pharoah SandersDrums – Randy MerrittGuitar – Carl LockettLead Vocals – Claudette AllenPiano [Acoustic], Electric Piano – Joe BonnerShekere, Congas – Babatunde*Synthesizer [Oberheim] – Mark IshamTenor Saxophone, Bells [Sleigh] – Pharoah SandersVocals – Bobby McFerrin, Donna (Dee Dee) Dickerson*, Ngoh Spencer, Vicki Randle
4:11
D2 Bedria
Bass – Ray DrummondComposed By, Arranged By – Pharoah SandersDrums – Idris MuhammadGuitar – Chris HayesPiano – John HicksTenor Saxophone – Pharoah Sanders
10:23
Companies, etc.

  • Recorded At – The Automatt

  • Recorded At – Bear West Studios

Credits

  • Engineer [Recording, Mixing] – Bill Steele

  • Engineer [Recording] – Doyle Williams, Mark Needham

  • Producer – Pharoah Sanders

  • Producer [Assistant] – Allen Pittman

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