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「コルトレーン」 インパルスのコルトレーン 2  John Coltrane on Impulse 2 "Coltrane"

今回は62年の作品「コルトレーン」。
「インパルスのコルトレーン」とした場合、「ライブ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード」がこの前に発売されているが、ライブ盤であるので、後回しとしたい。今回はまずコルトレーンが発売を了承したスタジオ録音から話を進めていこうと思う。

インパルスのスタジオ録音はどれもヴァンゲルダー録音、カッティングで、彼のイングルウッド・クリフの新スタジオ(59年オープン)でのセッションとなっている。60年代のヴァンゲルダー録音でコルトレーンが聴けるのもインパルス時代の魅力の一つである。ヴァンゲルダー録音はピアノ・サウンドに関しては大いに評価が分かれる所であるが、管楽器の実在感の魅力に関しては異論のない所であろう。

さて、今回の「コルトレーン」はボブ・シールのプロデュースである。ボブ・シールはかの「What A Wonderful World」の作詞・作曲者としても知られているが、クリード・テイラーが61年にヴァーブに去った後プロデューサーとしてのインパルスを牽引した。

「アフリカ・ブラス」がクリード・テイラーのプロデュースでまずは移籍記念第一弾の大編成ものであったのだが、ボブ・シール体制になり、このアルバムからベースにジミー・ギャリソンが参加、所謂インパルス期の鉄板コルトレーン・カルテットが形成され、黄金カルテット+ボブ・シール体制が始まった。

エンジニア、プロデュースも含め体制が固まることは、色々な面で意志統一が図られ良い効果を産むことが多いが、コルトレーン・カルテットに関してもそれは半分は当たっている(当たっていない半分の理由は後段で)。このアルバムには3回のレコーディング・セッションから厳選した5曲が収められているが、カルテットの可能性を追求した一枚をスタジオでじっくり作りあげようという意志が感じられ、どの曲も充実の演奏である。

一曲目は6/8の「Out Of This World」。このリズムは前作「グリーンスリーブス」や、かの「マイ・フェバリット・シングス」でも聴かれる、前作の「アフリカ」もこの系統でありコルトレーン・ジャズの最もポピュラーなリズムであるが、この「Out Of This World」でのエルヴィンのドラミングには一段抜けた感、一皮むけた感がある。ここでこのリズム・パターンが完成を見たと言っても良い。

このアルバムではB1の「The Inch Worm」も同系統のリズムであるが、この「Out Of This World」がより典型的で、その回転運動を続けていくようなドラミングは、今までジャズの世界になっかったリズム面での発明であると感じる。これは大きな一歩である。

前作の「グリーンスリーブス」でコルトレーンは6/8への愛着を語っていたが、「アフリカ」で一歩踏み出したと本人が語るリズムの解釈がここではカルテットの発明として昇華され成し遂げられた。このアルバムがプレスティッジでの初リーダー作と同名の「コルトレーン」とされたのも頷ける出来上がりである。

個人的にコルトレーン・ジャズの魅力はエルヴィンのドラミングに依るところが大きいと感じているのだが、その第一弾がこの曲である。このリズムのものとしては、この後「インプレッションズ」の「India」そして「ライブ・アット・バードランド」の「Afro Blue」と続く。「Out Of This World」は楽曲としてのポピュラリティーは「Afro Blue」に圧倒的に劣るが、他がライブ盤で、妙にシンバルばかりが目立ったりと難があり、(その分ライブの魅力はあるが... )ことエルヴィンのドラムに関する限りレコードでコルトレーンとその時代を振り返る時に、この録音をその嚆矢とするのは僕だけではないと思う。

もちろん他の曲も充実の演奏で、マル・ウォルドロンの曲、A2 の「Soul Eyes」も名演。「Miles' Mode」と名付けられたB3もやはりエルヴィンの新境地がうかがわれる演奏である。

全体を通して60年代のコルトレーン・カルテットの原型がここで形作られた一枚と評価できる充実作であるのだが、この後に「Duke Ellington & John Coltrane」(62)、「Ballads」(62)、「John Coltrane And Johnny Hartman」(63)と言ってみれば企画ものが続き、前述の「impressions」と、「Live at Birdland」(63)の2枚のライブ盤があるものの、カルテットとしての本格的なスタジオ録音は64年の「Crescent」まで待たなければならない。このあたりの事情はどういうことだったのか?

ご存知「Ballads」はコルトレーン最大のベストセラーとして名高いが、これは、ボブ・シールズの企画もの以外の何物でもない。「コルトレーンの音楽が難しくて理解できないというファンのための企画」とされているこのアルバムが売れに売れてしまったために何かしばし妙なことになってしまった、ということも十分考えられる。

そんなこんなで、このブログでは次回は「Crescent」を取り上げ、間の作は飛ばそうと思う。もちろんどれも良いアルバムで「Ballads」などコルトレーンのメロディーへの真摯な姿勢が心を打つ、広く名盤とされる盤と思うのだが、カルテットの本筋、コルトレーンが「ジャズにもたらしたもの」という面からの音楽的本筋からは外れていると感じる。

ということで、次回は「Crescent」です。


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