SaaS Engineering Meetup 企画趣意書
背景と目的:
我々が解決したい課題は、日本の DX が遅れていることです。経済産業省は、各企業による簡易な自己診断を可能とする「DX 推進指標」を 2019 年7 月に策定し、情報処理推進機構(IPA)が中立機関として分析した企業の自己診断結果を、日本の企業における DX 推進状況のベンチマークとして提供することとしています。その調査の2020 年における結果をみると、90%以上の企業がDXについて未着手であるか途上にあるということが分かります。新型感染症の流行以降、デジタルを活用する企業とそうでない企業の収益の差は5倍以上と言われるようになっており、もっと日本企業はデジタルを活用していかなければならないわけですが、日本は ICT 投資額が横ばいになっており、相関する GDP も1994年頃からのデータを見ても横ばいです。その上、日本は少子高齢化により、労働人口の減少が見込まれており、当然、ソフトウェアエンジニアを含む IT 人材も多くは輩出されない見込みで、需要は高まってきているものの足りていない現状であります。また、経済産業省が発表した DX レポートによると多くの企業がレガシーシステムを抱えており、それが日本の DX を妨げているという調査があります。多くの企業がレガシーシステムの保守運用に人員を割いているのであれば、攻めのIT投資でなく守りの IT 投資に終始しているということが窺え、このままでは日本の再興どころの話ではなく、衰退を招いてしまいます。では、そんな状況をどのように打破すれば良いのでしょうか。
その解決のキーワードが「B2B SaaS」であると考えています。 SaaS はソフトウェアを通して、特定業務のナレッジもしくはベストプラクティスを提供するものです。その特性上、様々な企業の利用を見込んだ上での設計がなされているため、特定業務を実行できるソフトウェアとして、従来のようなカスタムソフトウェアよりも比較的安価に扱うことができます。また、システム自体の運用などを SaaS 事業者が担うため、システムの運用などに充てていたエンジニアの労働力も攻めの施策に注入することができるようになります。経済産業省が2018年に発表した「 DX レポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開」(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html)によると、日本の大企業のシステム活用状況においては、社内システムなどに代表されるような SoR(Systems of Record) の領域が全体の80%を占めると言われており、付加価値をより社会に還元していくようなユーザー向けのシステムとしての SoE(Systems of Engagement) は20%ほどであるとされています。積極的に SaaS の活用を促進することにより、 SoE への自社リソース投入を推し進めつつ、 SoR/SoE ともにユーザーに提供する価値を開発することにフォーカスでき、攻めのIT投資が実現します。また、システム的な話だけではなく、 SaaS は業務ナレッジの塊、ベストプラクティスであり、ある種フレームワークのようなものであるからして、その導入においては既存の業務との差異が生まれます。以前のカスタム開発のアプローチでは業務にシステムを合わせていきましたが、 SaaS においてはシステムに業務を合わせていく逆転のアプローチになります。これが様々な場面で業務を変革し、 DX を実現する橋渡しになると考えています。日米を比較するとまだまだ SaaS の領域でも大きな差がありますが、これから SaaS の市場が国内においても盛り上がっていくことは間違い無いと考えています。
しかし、多くの人が気がついていない、もしくは事が起きてから初めて気がつくような事実があります。それは B2B SaaS 開発 / 運用自体、特異性があり、難易度が非常に高いことです。 それは契約企業(=テナント)に紐づく様々な考慮が必要になってくるためです。まず、SaaS は、利用者の視点に立てば自分達がマネジメントする領域がデータのみになるため、非常に効果的なものでありますが、 一方で SaaS 事業者が担うべき領域は、アプリケーションはもちろん、セキュリティ、インフラストラクチャなど多岐に渡ります。また、認証認可や利用状況の可視化や利用状況に応じた課金モデルであれば請求機能など、SaaS が SaaS としてやらなければならない管理機能群(コントロールプレーン)が存在します。SaaS 事業者が作らなければならないのは、業務ナレッジを提供する機能群(データプレーンもしくはアプリケーションプレーン)だけではないのです。その上で、多様な顧客の利用に応じたスケーリングに配慮しながら運用を行っていく必要があります。SaaS 以前のパッケージソフトウェアであれば、提供者側の考慮範囲は機能、つまり、それを実現するアプリケーションに集中していましたが、このように SaaS はそれまでの作り方では通用しないのです。このようなことが日本においてはまだまだ認知されておりません。例えば、SaaS では、利用企業 / 組織の単位をテナントと表現し、複数テナントが利用するような構成をマルチテナントといいます。SaaS はこのマルチテナントをどう構成し管理するかがアーキテクチャ設計に中心的に関わってくるわけですが、日本ではまだ SaaS 開発のナレッジが十分に共有されていると思えません。アメリカにおいては、SaaS のデザインパターンが共有されており、テナントを考慮しつつコントロールプレーンやデータプレーンをどう設計すべきか(どのパターンを採用すべきか)、テナントティアに応じた動的なインフラ生成などをどう設計し実現するか、マルチテナントデータをどう分析してビジネスに活かすべきなのか、こういったことが積極的に議論されています。しかし、日本ではこのレベルの議論はなく、そもそも SaaS が特異性を持つことも認知されておらず、サイロモデルやプールモデルなどの初歩的なアーキテクチャについても認知していない人が多いと感じています。知識が共有されていないことにより、このままでは SaaS 自体がレガシーシステムになってしまうリスクがあるようにすら感じています。
しかも、それはソフトウェアだけの話ではなく、それを作るチームや、扱う組織の運営、経営、法律、AIなど幅広いトピックが関連しています。それは当然 SaaS というものがビジネスの中心にソフトウェアを置いているからに他なりません。SaaS はビジネスとソフトウェアが密接に関わりあうビジネスモデルなのです。例えば、プライシングやティアをどのように設計するのかという話は、インフラなどの原価率をどのように見込んでフリーミアムを展開すべきか否かなどを考慮しないと判断できない、などです。
そこで私たちは改めて B2B SaaS の魅力や将来性の高さを発信し、その過程で特異性に触れていきながら認知/啓蒙/学習を推し進めることで、日本における B2B SaaS の業界の底力をあげ、大きく躍進できる SaaS を日本から生み出すべく、本活動を開始いたします。
内容:
SaaS Engineering Meetupは、B2B SaaSに関するトピックをテクノロジーの観点を織り交ぜつつ探求する勉強会兼交流イベントです。基本的にはオンラインで発表者が登壇し、座談会やQ&Aを行うものを基本形にしつつ、数回に1回はオフラインでの交流もできるよう設計いたします。
以下は参考の企画タイトルになります。
2023 Japan AWS Top Engineers (Software)が語るSaaSの魅力!
SaaS プロダクトマネジメントの勘所
SaaS フィーチャーフラグ祭り
SaaS プライシングとメータリング 〜プランと実装〜
AWS re:Invent 2023 SaaS レポート
SaaS オブザーバビリティ
最初はテクノロジーの話を中心に扱いますが、その後はビジネスにどう活かすか、組織でどうデータを活用するかなどのトピックも扱えるようにしてまいります。
ロゴ:
ミートアップ用connpassページ:
https://saas-engineering-meetup.connpass.com/
発起人:
小笹佑京(株式会社アンチパターン 代表取締役)