「ルックバック」という快作、感想とタイトルの意味を考察※ネタバレあり+感想ツイートまとめ
藤本タツキ氏の読み切り漫画「ルックバック」が素晴らしすぎたので感想とタイトルの意味を考察する。
読んでない方はまず読んでみてほしい。
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執念とある種の諦念が作品全体に横たわっており、でもそれが苦しいものじゃなくて味わい深いものとして描かれている。
創作をしている人にはあまりに効き過ぎるんじゃないかと思うほどだ。
セリフを多用せず、それこそ背景にあるカレンダーや服や窓の外の景色などから、時間の流れを表現するなど、情緒な表現が秀逸である。
また、今回の作品も藤本タツキ氏らしく映画からのオマージュとも取れるシーンは多く、タランティーノ監督作品との比較など様々な考察がなされているが、本稿ではタイトルに着目してみたい。
ルックバックに込められた意味の考察
ルックバックは多義的な語として扱われていると考えている。
一つはLook (at the) back、つまり「背中を見て」というのがあるだろう。
人の背中を見るという行為、憧れの象徴としての背中である。
これは83ページにおける「おー京本も私の背中見て成長するんだなー」から読み解くことができる。
漫画を描いているシーンは常に藤本の背中側からの描写であるため、読者としても京本と近しい視線で、背中を見ている状態である。
また、背中という意味でいうと、サインの描かれた半纏(背中側)を見るということを直接的に示唆している。このサインは自分が「先生」として京本に認められた証であり、またサインをすることによって自身が「先生」であると自覚させたものであるため、非常に象徴的なアイテムになっている。
そしてそれによりこの背中は、
Look back (on)
「追憶する。回顧する。」という行為に繋げられている。
Look Back In Anger
こちらは最終ページに描かれている。しかし「In Anger」しか見えていない表現になっているのでこちらのことかは分からない。
イギリスの劇作家ジョン・オズボーンの戯曲であり、またそれをもとにした映画(邦題「怒りを込めて振り返れ」)がある。当時のイギリスの社会への怒りが表現されており、多くの怒れる若者たちを生み出した作品である。
この映画をアイテムとして仕掛けることで、確かな怒りがそこにはあるということが表現されているように思う。
Don’t Look Back In Anger
これはoasisの曲である。
この曲は単純に読めば失恋の歌であるが、その強いメッセージ性からマンチェスターで発生したテロに対するアンセムとして認知されている。
http://vimclip.jp/oasis-dont-look-back-in-anger/
「Please don't put your life in the hands of a Rock n Roll band who'll throw it all away」
まとめ
本作品を読むと、凄惨な事件を思い出さざるを得ない。
でも、何もかもを忘れるのではなくて、それ以外のこともちゃんと思い出して、それによって前を向こう(もしくは生きよう)という強いメッセージを感じた。
本当に味わい深い作品である。
ずっと大切にしたいので、紙媒体で欲しいところである。