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映画「害虫」感想

本編【ネタバレ注意】

 主人公のサチ子(宮崎あおい)は,母親の自殺未遂や担任との恋愛関係の影響のせいか,同級生たちとは一風変わった学生時代を過ごしていた。彼女は学校に行かず,タカオという青年と知的障害者のキュウゾウと共に時間を過ごすことが多くなる。タカオやキュウゾウと過ごしている間は,自然な笑顔がこぼれる。
 ある日,タカオと「遠くへ行こう」と約束をしていたのだが,約束の時間になってもタカオが来ない。不審に思ったサチ子はタカオが住むアパートの一室へ向かう。そこには,以前タカオが暴行を受けたチンピラの死体が横たわっており,サチ子は驚愕する。タカオはどこかへ逃げてしまったようだ。この出来事を機に,親しく話しかけてくる同級生・夏子(蒼井優)の努力もあってか,再び学校へ通うようになる。同級生の男の子と付き合う事になるが,サチ子は誰に対しても特に興味を示さない。
 またある日,家に帰ると母親の婚約者・徳川が勝手に自宅に侵入しており,レイプをされそうにいなる。幸い,数学のノートを返しに来た夏子がその現場を発見し,レイプは未遂に終わるが,婚約者の娘に対する暴行を知った母親は絶望する。また,レイプ未遂事件の翌日には,同級生の間にその噂は広まっていたが(夏子が広めた?),そのことに対してもサチ子は無関心を貫いているようだった。
 キュウゾウとの再会を経て,サチ子は悪事を働くようになる。物語の終末部では,夏子の家を火炎瓶で放火するが,怖くなったサチ子はヒッチハイクで元担任の元へ向かう。しかし,再開は叶わず,旅先で出会った性風俗業を斡旋する男の運転する車に乗ってしまう。

感想

 「害虫」というタイトルは,サチ子自身が周りの人間を不幸にさせる害虫であるというところに由来するものです。本編を見てもわかるように,サチ子に他者を傷つけるような悪意はありません。しかし,彼女の母親と婚約者の関係破綻,夏子の失恋,元担任の仕事の変化,タカオの死。これらは、サチ子に主体者意識はないと思うのですが,彼女が無意識・無自覚に招いたことのようにも思えます。それは,サチ子が持つ少女性(性的なもの,子どもっぽさ),同級生にとっては異性としての魅力とも言えると思います。 
 火炎瓶を投げているのは自分の家なのかな?と思っていましたが,ネットの考察を見ると,夏子の家だったようです。僕の夏子に対する見方は,サチ子のことを深く知らず,ズケズケと入ってくる女の子という程度の印象だったのですが,レイプ未遂の時の「サチ子が可哀そう」という発言からは彼女の偽善的な優しさが見えるという意見に納得させられました。そのことに気づいた結果,先生からの手紙「最も悪なのは――」に触発されたこともあり,夏子の家を放火したという流れはスムーズで夏子というキャラクターの位置づけが腑に落ちました。 
 全体的に,セリフが少なかったと思います。その分,役者さんの表情から意図を汲み取る箇所が多く,役者さんの演技力が一層際立っていました。宮崎あおいさんの演技からは,学生時代特有の人間や社会に対する無力感や,物事の全てを理解しているかのような全能感が感じられて,少し既視感を覚えました(笑)

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