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移り行く車窓の風景① ~列車の旅はなぜ楽しいのか~

列車の旅って、独特の楽しみ、ワクワク感がありますよね。
 
子どもが座席の上にヒザを立て、窓の桟に手を掛け、口をポカンと開けて流れゆく車窓の風景を眺めている。その気持ちが分かる気がするのです。
 
きっと、流れゆく風景や、それぞれの町に特有の人や雰囲気、そういうものの移り変わりを「御縁」として味わって行く。

日本の列車は世界に誇る正確運行です。計画通りの旅を楽しみつつ、ランダムに現れる御縁も楽しめる。その安定計画性とセレンディピティの塩梅が絶妙なのでしょう。
 
「塩梅」なんていう言葉を使うと、「列車の旅はやっぱり車内で『おにぎり』を食べたいよなあ。」なんてイメージが浮かびます。鈍行列車で一日掛けて、風物や食べ物を楽しむ。

貧乏学生だった私は、休みには必ず「青春18切符」を買い、普通列車で一日掛けて東京から北陸へ帰省しました。
 
「青春18切符」、誰がこんな小っ恥ずかしい名前を付けたのでしょうか?
きっと、利益率の低い商品をわざと売れなくするための、したたかな作戦であったに違いありません。
 
「あのーすみません、『青春18切符』、下さい・・・」
 
意地悪そうな駅員さんに「えっ、何?」とか言われると、
「いえ、何でもないです」とか言って帰ってしまいそうです。
 
東京から北陸へ普通列車で向かうには、中央線で信濃方面へ向かい、上越地方へ抜けてから西へ向かうのが最短です。
 
東海道方面へ回る人には、夜行列車の「ムーンライト長良」が最強の普通列車と言われておりました。
 
朝のまだ暗い頃に、「中央特快」の始発に乗って東京を発ちます。
 
昼頃に乗り継ぎで時間が空くのは松本、と決まっていて、昼飯だけでは時間が余るので、街をブラブラと散策します。城がある街で、旧い建物の高校があったり、風情があってよい街だなあ、と思います。

鈍行列車で日本を縦断して驚くことのひとつは、方言の変化です。方言の変化に「徐々に」はありません。県境を越えた途端に、ガラリと言葉が変わります。
 
これは明らかに全世界で見て日本特有のことで、江戸時代に関所を設け、藩外への移動を制限していた頃の名残が、百数十年経った今も色濃く残っているのです。
 
年末の帰省では、ひと山越えると雪景色です。本当に一本のトンネルの入り口と出口で全く景色が変わる様子は、自然の不思議さを考えさせられます。
 
今や、地方の在来線の多くは第三セクター化されブツ切りになり、かつてのようなスローでローコストな長旅は出来なくなってしまいました。
 
「リニアは東京⇔名古屋を40分で結ぶ」とかも、世の中が進歩して便利になるのは良いのですが、味気ない気がします。地下鉄でA地点からB地点へ、目を閉じたら着きました。便利なテレポーテーションだが間のプロセスが欠けている、そんな感じ。
 
世の中のムダが無くなっていくことで若い世代は「タイパが良い」とか言うのかもしれませんが、オジサン世代にとっては、失われていくものの郷愁が、大いにあります。


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