今の物価上昇は序章に過ぎない ~こころをつなぐもの~
私は消費財生産現場の生産技術者をしているので、生産品の原価について考えるのが職業病になっています。
ここ最近食品等の生活必需品が次々に値上げをしていますね。これは言うまでもなく、輸入原材料が値上がりした分を最終製品価格に転嫁しているものです。
ここで残念なお知らせがあります。今現在の値上がりは序章に過ぎず、今後5~10年の間に次なる異次元の値上がりがある、と私は考えています。それはなぜか。
それは人件費上昇によって原価の固定費部分が大幅に上昇する時代に突入するからです。それは少子化時代の労働力減少とともにやってきます。
「景気を刺激させて企業を儲けさせるとトリクルダウンで賃金が上がる」という論説がありますが、それはウソです。「最近結構儲かってるから利益率が良いなあ、みんなが頑張ってるおかげだから一律給料を上げてあげよう!」なんていう経営者を見たことがありますか?私はありません。
今現在、正規雇用にあぶれた「氷河期世代」は「団塊ジュニア世代」にあり、一大人口ボリュームゾーンを形成しています。申し訳無い言い方ですが、そのようにひどい扱いをされてきた方が多くいることのおかげで、今現在は多少ブラックな条件で求人しても人が集まってしまうのです。経営者は利益を最大化するためにその条件を最大限利用します。
今後5~10年の間に、生産現場では「何をしても人が集まらない」という時代が現れます。時給を2,000円にしても2,500円にしても働き手がいない、優秀な労働力の企業間の奪い合い。その時になって経営者は初めて、「イヤイヤ」時給を上げるのです。
自動化をすれば良いじゃないか、と言われるかもしれません。しかし製造業はいかに原価を下げて利益を上げるかがもともとの業務のど真ん中であるので、「自動化して利益が出るところがあればとっくにやってます」というのが実情なのです。つまり、投資効果がペイするものは既に自動化が完了している。
よくある記事の特集で「AIによってなくなる職業TOP20」みたいなのがあって、いつも上位に「工場の単純作業」というものが現れたりしますが、これはなくならない、と断言します。というより、今の工場に「単純作業」なんて存在しないのです。
人件費を削減してメリットが出るような工程は全て既に自動化がされています。そうすると現時代における製造工程業務とは、数々の自動産業機械の稼働と複雑系をモニターしてあらゆるトラブルに的確なアクションをしながら工程を止めないようにする、という極めて複雑怪奇かつ深い経験を必要とする判断業務なのです。
考えてみてください。「自動車の運転」というあのように誰でもできる簡単な作業がまだ自動化の目処が立っていないのです。自動産業機械プロセスの稼働管理というのは「車の運転」の100倍以上の複雑系であると言い切れます。
「AIで単純作業員がいなくなるから~」理論の論者は恐らく工場の現場に入った経験がない人。「工場」という言葉をビッグワードで捉えていて、「9時から5時まで右のコンベアにあるものを左のコンベアに移す作業をしている。あるいはもうちょっと難しいのかも?」みたいなイメージで捉えています。そんな工程が仮にあったら今週中に10万円で自動化が出来ます。
いずれにせよ、こういったような理由で今後5~10年の間に、生活必需品の消費財がもう一段階、異次元の値上がりをする時期がやってくるのです。残念ながら。それに備えなければなりません。