名も無き世界の誕生、そして……①

遥か彼方には数多の星が瞬いていた。
其れ等の僅かな光を頼りに、夜と泥の世界は動きを始める。
夜と泥は、自ら以外の何かを作りたかった。
交わって、離れて、そこから泥人を幾つか生み出す。
しかし泥人は何も語らず、ただ微かに蠢くのみ。
それでも夜と泥は、「子」らが愛おしかった。
しかし泥人は、やがて「親」の中に戻ってしまう。
夜と泥は、独り立ちできる「子」が欲しかった。
欲しかったが、ふたりだけではそれ以上に為す事は叶わなかった。

遥か彼方の世界から、幼き星がひとり迷い込む。
幼き星は、熱く、眩かった。
夜は照らされ、昼となった。
泥は乾き、土となった。
夜と泥は、幼き星に語り掛ける。
「新しい子を作り育てたい」
星は返した。
「どうすればいいのか」
夜と泥は答える。
「その場所で私たちを照らしていてください」

幼き星は夜と泥の仮初の子となり、弟妹の誕生を静かに見守り続けた。
昼は天空となり、土は大地へと変わっていった。
天空からは風が、土が乾く時に分かれたものは水となり、風と水が光と熱の中で交わって雲が生まれた。
大地は動き山岳(やま)を産んだ。雲と山が交わり雨が生まれ、続けて川が生まれた。
川は大地に帰ろうと身をくねらせる。
その先に海が生まれた。


ここまで終わったところで、星は夜と泥に願いを告げる。
「星の弟妹を産んで欲しい」
これまでに生まれた弟妹は、泥人とは違って各々の姿と力を得ていた。
しかし幼き星にとっては、もう少しだけ似たような姿と力の弟妹がいて欲しかった。

夜と泥は、幼き星にとても感謝していた。星のその願いを出来るならば叶えたかった。
ふたりが感じ取った星の姿と力を、自分たちなりに真似て作り上げようと足掻き続け、そして「新しい星」が生まれた。

新しい星は見た目も美しく、幼き星に最も近い姿と言えた。
しかし幼き星や遥か彼方の星々が持つ力……光と熱を放つ事だけは出来なかった。

夜と泥は、幼き星に詫びた。
だが幼き星は、新しい星を自らの光で照らすと、「妹」はそれを受け止めて柔らかな輝きへと替える。
「兄」はこの時から太陽を名乗り、「妹」に月という名を与えた。

夜と泥が太陽の力を借りて生み出した子ら、そして最後に生まれた月は、緩やかに「世界」という軛の中で暮らしていく事となった。


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