LayerXの組織設計で考える4つのポイント
こんにちは。CTOの松本です。最近はスクワットを頑張っています、良い仕事は深いスクワットから、と書いてしまったので有言実行です。
今回はLayerXアドベントカレンダーの一環で、LayerXの経営会議で自分が意識するポイントの一つである組織設計についての話を書かせていただきます。
組織 > プロダクト > お金
スタートアップに限らず、組織を運営するにあたっては資源となるヒト・モノ・カネとの向き合い方について問われることも多いかと思います。この3つについて、特にソフトウェアを中心としたスタートアップでは人が最も大切なファクターとなりがちです。やはり、良い仲間を集めて初めて良いプロダクトが生まれるものです。
人とその集合である組織は、プロダクトの進化の起点であり、また文化を守りながらそれを変化させスケールさせるのがとても難しいと感じます。どんなに資本やその他リソースを持ったところで、この難しさは変わりません。
となると、スタートアップにおけるオペレーショナルエクセレンスを保ちスケールするには常に組織設計という観点にフォーカスせざるを得ないのではないでしょうか。
それゆえ、LayerXの経営会議において自分は普段、気持ち多めに組織設計の話をするように心がけています。文化を維持したコミュニケーションと高いモチベーションを維持するには組織のあり姿が重要であり、それを経営の最重要課題、少なくともその一つ捉えねばなりません。
しかも、ソフトウェア設計も組織の形に依存する部分があります。Conwayの法則はもはや耳にタコという方も多いかと思いますが、組織のあり方とソフトウェアのあり方は互いに近い形に収まっていくものです。密なコミュニケーションを必要とする組織には、それに近いモノリスなシステムが存在してることが多々。これはどちらが先かと言われればケースによりけりではありますが、結果として似通ってくることは多いのではないかと感じています。
ですので、CTOとしてその組織の形は技術戦略としても重要なものと捉えています。
また、この組織の形は特に組織と事業の拡大期、組織全体で50名、開発組織で20~30名を超えるようなタイミングで歪みが始まりやすい印象があります。組織拡大期においては、少人数のスタートアップからもう少し規律を加えた組織拡大に向けての脱皮を図るタイミングですが、もう多少はスタートアップ時代のいわゆる以心伝心なコミュニケーションでも運用できてしまうフェーズでもあり、無理にそのまま進めることも可能なタイミングです。
しかしこれは将来に対する組織負債を残すものでもあり、その歪みが大きくなるほどそのダメージは大きくなっていきます。実際に自分も過去、初めての拡大期を迎えたタイミングで非常に苦しんだものでもあります。
LayerXはまさに今拡大期を迎えつつあり、この組織設計の変化点に取り組まねばならないタイミングです。事業スピードとのプロダクト品質を支え、そして「長時間より長期間」のモットーの元メンバーが働いて意義を感じられる組織、成長できる組織であるために、組織設計は経営会議における重要論点であると考えています。
組織設計について向き合うときの4つの観点
この組織設計について、実際に向き合う際にはパッと思いつくところで4つほど観点があるなと考えています。経営会議やチームとのmtgの中でもこうした視点を意識している事が多いのかなと思います。
以下がその4つとなります。
1. 人と資本の時間軸
2. 部分ごとの不確実性の濃淡
3. タスク完結性、モチベーション
4. ソフトウェアとプロダクトの設計的視点
この4点について一つ一つ見ていきます。
人と資本の時間軸
経営計画やプロダクトのマイルストーンを考える中では、およそ1年〜3年の範囲について考える事が多いかと思います。そうした計画を支える組織の拡大や変化を実現するにあたって、採用活動やそれを支える資金など考えると時間軸の意識が重要になります。
採用について考えてみましょう。実際に人を採用していくには、自社やその魅力、募集しているポジションを知ってもらう広報・マーケティング的な活動が必要です。更に、その上で何らかの接点を持ち魅力付けをして実際に応募していただくための採用活動、そこから応募頂いた人を面接し、オファーしていくプロセスがあります。オファーしても承諾して頂けるわけではないため、そこからの承諾に向けた魅力づけがあって初めて入社に繋がることが殆どかと思います。そうして入社していただいたとしても、実際にパフォーマンスを出していただくにはオンボーディング期間が欠かせません。
この、採用広報〜オンボーディング完了までの期間を考えると、採用広報〜応募を実現するのに場合によっては1~3ヶ月、そこからオファー承諾まで1~2ヶ月、更に承諾から入社まで1~2ヶ月、そしてオンボーディングにも1~3ヶ月。合計すると雑に見積もっても4~11ヶ月もかかっています。体感としても半年前後は動き始めてから必要と思っています。
このタイムラインを踏まえると、想定した組織拡大を実現するには半年〜1年前から備えていく必要があり、またその期間をどれだけ短縮できるのか取り組み続ける必要があります。
また、人を拡大するということは、それに対する資金調達も必要になるかもしれません。実際に動き始めてから資金調達の目処がつくまで、やはり半年〜1年かかると見たほうが安全ですから、ここでも早めの手立てが必要です。
この時間軸を意識すると、将来計画は今日の行動に直結する事がわかります。この時間軸意識が組織設計に向き合う場合重要な観点となるのです。1年後何を達成したいか、それを実現する組織はどのような形か、それが見えたら今動かなければ実現しないでしょう。
ここに経営的意思決定が必要となります。将来がまだ不透明なタイミングから投資をしていかねばならない、そんな意思決定が必要だからです。例えば、この時間軸を短くしようとするなら、常日頃からの採用広報への注力が必要です。とすると強い人事・広報組織が必要であり、早くからそうした体制の構築が求められます。LayerXでは常に石黒さんに助けられてばかりと感じています、感謝。
また、採用ポジションの明確化が必要です。どこの組織にどんなロール、どんなスペシャリティを持った人が必要なのか、そのジョブディスクリプションがなければ、採用候補者のみなさんが採用プロセスに乗ってくださる確率はグッと下がるでしょう。世の中素晴らしい機会に溢れていますので、自分がよりイメージつくポジションを選ぶことが普通だと感じています。
素早く採用につなげるにあたって、常にこれから採用しようとする人のジョブディスクリプションを明確化しておく活動が欠かせません。ちなみにLayerXでは、もしかするとお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、最近細かいジョブディスクリプションの募集が多くでています。これはまさに今拡大期の弊社のこれからを支えるための活動の一環です。
この、1年先、1年半先を見据えた早め早めの投資をどう意思決定するか、そのシグナルを見逃さないよう、組織設計という観点で経営会議では各位の意思決定とそれが未来に与える影響、組織のあるべき姿をイメージし議論に載せるよう意識しています。
部分ごとの不確実性の濃淡
もう一つの観点が不確実性です。どんな事業であれ、その中身はいくつかのモジュールに分かれることかと思います。営業一つとっても、顧客セグメントやThe Model的な組織区分によってモジュールがあり、プロダクト開発においてもいくつかの組織に分かれてくるでしょう。
この時、不確実性はモジュールごとに等しいわけではなく、部分部分に濃淡が存在します。この不確実性を意識した組織設計が、所属する人への期待値やキャリア戦略にも明確に関わってきますし、事業的にも重視するポイントが異なってきます。
不確実性が高い部分というのは、つまりどうすれば事業成長につながるのか、この事業における担当部分が成長に寄与するための方程式が見えていない状況を指します。例えば、機械学習担当チームと一口に言っても、どのようなアルゴリズムがあるべきなのか、何をどう最適化するのがこのチームにとっての正解なのか、そのためにはどのような改善が重要なのか。スタート時点ではこうしたポイントが全く見えておらず暗中模索しながら少しずつ方程式を見出していくことになります。段々と、文字読み取り精度が重要なのだ、そのために〇〇なデータを集める事が重要なのだ、と言ったことが見えてくると改善活動の方向性がハッキリしてきて、取り組みやすくなるでしょう。
この不確実性が高い部分では、精度の高いオペレーションよりも、極端な表現をすれば粗雑な取り組みを数多く推進しながら取っ掛かりを探す事が重要となります。ですので、組織的には尖った専門性よりも、もう少し幅広に取り組みが可能なフルスタック性のある方が向いているフェーズとなります。
一方だんだんと不確実性が低減し、どの方向性でどう改善すればよいかが見えてくると、その取り組みを型に落とし、より精度の高いオペレーションを推進していくことが必要になります。この場合、高い専門性を有する方や型を知っている・作れる方、ミス無く推進することを得意とする方が重要となってきます。それによって、より高いオペレーショナル・エクセレンスを実現し、安定した成長・改善を実現していくことになります。
また、不確実性が低減してくるタイミングというのは事業の規模も拡大していくため、改善やミス一つの影響の桁が変わってくるものです。この観点からも不確実性の低い部分には高い専門性を有する方が動きやすい組織を作ることの意義があります。
自分含め、スタートアップ初期では立ち上げ期の得意な、突破力の高い方が多い印象がありますが、組織拡大にあたっては、各位の得意な部分、成長したい部分に合わせたチーム構築をできる限り実現していく必要があります。その時に、各モジュールの不確実性を判断しながら、適材適所となるような組織設計を目指していかねばなりません。
ですので、時々、事業の状況を俯瞰的に見ながら、領域ごとの不確実性を見定め、時に大胆に人を抜擢するなどしながら組織の形を作っていく必要があります。
タスク完結性、モチベーション
ここまでは事業推進的な観点で書いてきたのですが、少し観点を変えて、人の面から考えてみましょう。この時に組織設計として重要なのがモチベーションとの関係性です。やはり組織は人です。人のパフォーマンスの総量が組織の強さであり、そのパフォーマンスは能力の高さだけでなくモチベーションも大きなファクターとなります。
組織設計はこのモチベーションに当然ながら大きな影響を与えます。特に意識することの一つとしてタスク完結性というものがあります。タスク完結性というのは、「そのチームや個人の中でタスクの設計から完了まで理解でき、自身で意思決定できること」というふうに捉えています。
どうしても組織が拡大してくると、コミュニケーションが複雑化し、意思決定するにも様々なチームとの調整が必要になりがちです。すると、自分の意思でタスクを決め動かすことが難しくなっていきます。これが進んでいくと、その組織での責務や目標を自分ごと化できなくなり、モチベーションの大きな低下を招きます。自分もやはり自分で意思決定できないタスクは楽しくないと感じますからね。
ですので、組織設計を考える上では、一つ一つのチームが自身で意思決定して進められるのか、その阻害要因が生まれないかという観点が重要です。LayerXではTrustful Teamというバリューがありますが、お互いを信頼して事業を進めるには、それに適した組織設計が必要です。どんなにTrustしてようと、組織構造次第では簡単にコミュニケーションが複雑化し、背中を預けあって仕事をしていたつもりがだんだんと硬直してくことになります。
そうならないよう、組織設計、特にそのコミュニケーションの側面で、今後の拡大にあたってどのような仕組みが必要か考えていく必要があるでしょう。例えばDevOpsやSalesOpsといった考え方で、そのコミュニケーションを型に落とし自動化することで円滑化したり、組織文化的な背景を徹底的に浸透させるためのイニシエーション的な仕組みも必要となります。
こうした仕組みを推進するには当然推進の責任者が必要となります。LayerXでは取締役の手嶋さん発案でTrustful Team委員会というのが発足しており、組織が拡大する中で文化を維持するための取り組みが進んでいます。手嶋さんありがとうございます…!その他、最近はSalesforceのスペシャリストである松本さん(自分ではありません)がSalesOpsの改善を進めていたりなど、様々な面でOpsを改善されています。
こうした活動は、組織間のコミュニケーション設計をするうえで重要であり、型と文化によって考え方を揃えることでお互いの活動や意思決定を信頼し背中を預けることに繋がるのだと考えています。
今後も、組織拡大にあたってはその複雑化しそうなポイントを見定め、どのような組織の形があるべきか、その中のコミュニケーションが速度を落とす要因になっていないかなど、自身で意思決定できるタスク完結性の高い組織になっているかというのは見ていくべきポイントなのではないかと思います。
ソフトウェアとプロダクトの設計的視点
また、ここは何度も様々な場で話をしていますが、ソフトウェア的観点からの組織設計も忘れてはならないポイントです。今後、プロダクトをよりスケールするにはどのようなモジュールに分けていくことが必要か、これをソフトウェアとそれを作る・使うチームの双方から見ていく必要があります。
実は先程のタスク完結性はソフトウェア的観点で言い換えることができます。ソフトウェア設計では凝集度・結合度という指標がありますが、まさに組織設計も表裏一体で同じ考え方ができると思っています。凝集度とはそのチームやモジュールの担当する機能がシンプルになっているか、複雑な複数の機能を持たされていないかという指標であり、結合度とは機能を果たすにあたって他のモジュールにどれだけ依存しているかという指標です。
この2つの観点を意識しながら、どこにチームとモジュールの境界線を設けて分割していくかが重要です。人は採用すれば増えるかもしれませんが、そのパフォーマンスはただチームが大きくなっただけでは上がりません。段々とお互いの足を踏み合う状態が生まれていきます。よく使う表現で、狭いキッチンに沢山のコックを詰め込んだ状況となります。互いの作業が邪魔をしあってうまくいい仕事ができません。
そうならない、スケールする組織とするためにはソフトウェアをうまく活用し、担当する範囲を分割しながらキッチンを分けて行く必要があります。お互いが独立して開発でき、責務が明確である、これを実現するにはソフトウェアと組織双方を意識したプロダクト設計が欠かせません。
そのプロダクトを構成する業務ドメインやその中で行われるプロセスを分析しながら、どのように区分されていくべきか考え、それを反映した組織設計になっているのか。この観点が考慮されている状態を常に保てるよう、CTOとして全ての組織設計に意識的に関わるようにしています。
4つの視点を踏まえて
実のところ、4つと言いつつ、他にも色々と変数はあると考えていますが、特に重要なのはこれらだと考えています。こうした観点を踏まえて、スケールする組織で有り続けることが今のLayerXでまさに問われていることだと思っています。まだまだ自分も実現しきれていません、組織成長とともに自分も成長していきたいと思います。
また、LayerXではこの組織づくりをスケールさせていくためにもエンジニアリングマネージャなど様々なポジションで募集を開始しています。自分やfukkyy、mosa、石黒、手嶋などと一緒にこの課題に取り組みたいという方、ぜひご応募頂けると嬉しいです。
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