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Night Diver

歯磨き粉がなくなっているのを思い出しドラッグストアへ向かった。目的のものを手にしてレジに向かう途中、化粧品コーナーで足を止める。そこには、ありとあらゆる種類のパックが陳列されていた。

いつもどおり保湿をしても最近は肌がカサカサになる。この時期になると毎年そうだ。何十枚も入ったお得なパックもあったが、何を使っても肌が荒れないというわけではない。はて、どれが合うだろうか。私は、ひとつひとつ手に取って効果や成分を見比べていたが、気がつくと、店で流れはじめた曲に耳を傾けていた。たしかに聞き覚えがあるのに、なかなか思い出せない。

ループループループして……

そこまで聞いて、ようやく分かった。

『Night Diver』、三浦春馬の曲だ。

ものすごい才能ある人。容姿も抜群にいい。演技も、歌も、踊りもできる。努力家で、何よりすぐ頭に浮かんでくるのは、あの笑顔。

彼の死について、いたずらに好奇心を煽る憶測が今も飛び交いつづけている。真相は誰にも分からない。ただ私は、そういうもので彼を塗り潰したくなかった。

そういえば、『世界はほしいモノであふれている』で、MCを引き継いだ鈴木亮平さんが「こんなとき春馬くんだったら」と言っていた。その言い方があまりに自然で、なんとなく、でもなぜか鮮明に頭の片隅に残っていたのだが、私はようやく、そういう対応が嬉しかったのだと気がついた。

ふとある予定を思い出し、慌ててスマホのカレンダーを確認する。大学の友人と会う約束が来週に迫っていた。やっぱりこの肌の調子ではちょっとなぁ。すっかり我にかえって視線を走らせていると、右端に米麹のパックがあった。

「ほぼほぼ天然成分。これが合わないってことはないでしょ」

はだけたシャツでしぶきをあげて踊る姿を思い浮かべ、「渾身」という言葉の意味を思った。あの姿は彼の頂点だったのだろうか。

レジ袋をお付けしますか、と店員に聞かれ、はいと答えた。考えても、分からないことが現実にはある。時間は止まらないし戻ってもくれない。生ききってみなければ分からないことがこの世界にはある、そんな考えがどこからともなく湧き上がった。

これも一緒にお願いします、私はさっとレジ横のカゴのなかからじゃがりこを取り、店員に差し出した。

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