飲食DXをちょっと味見してみる
1.最初に
皆さま、こんにちは。
くらちゃんでございます(プロフィールはこちらです)。
まったくnoteを更新していません。ごめんなさい。
2022年8月27日のスタラボ座談会で「飲食DXをちょっと味見してみる」というタイトルで40分ほどお話をしてきました。その時の内容を記載します。
2.飲食業界の現状
まず最初に、飲食業界の外部環境について、以下5つの切り口でざっと見ていきます。
①売上
②倒産
③原価
④人件費
⑤賃料
①と②はマクロ的な観点で景況を、③~⑤はFLR(Food/Labor/Rent)指標に関連する観点で見ていきます。
①売上
このグラフは、2015年の活況度合いを100とした時に(縦軸)、横軸の時系列でどのように活況度合いが推移しているかを表したものとなります。
このグラフから読み取れるのは
・ファーストフード業態はコロナ前よりも上向きつつある。
・居酒屋形態が深刻なダメージを受けている。
・全体的にコロナの影響は大きい。
というところかなと思います。
②倒産
表中段の「酒場、ビヤホール(居酒屋形態)」について、前年同期の倒産数が79だったのに対して当期は61件と77.2%まで減少しています。
一方で、同分類の負債総額は前年同期が3,934百万円だったのに対して当期が17,623百万円と4.5倍弱まで増えています。
これは中規模以上の居酒屋店舗の倒産が増えていることを示しています。
小規模店舗に比べて体力があるはずの中規模店ですら倒産するこの状況は、とても厳しいものと言えるでしょう。
③原価
この表を見ると、飲食業(外食)においては90%弱の層が原材料コストが増加したと回答しています。
当該資料の別のページでは、全体の45.6%が「コスト増を価格に転嫁できない」と答えていて、またコスト増を価格転嫁できない理由として31.7%が「経営方針や戦略が値上げにそぐわないから」と答えています。
低価格帯で出している店舗にとっては、ただでさえ原価を下げる(コントロールする)のは大変だというのに、これでは両手両足を縛って歩けと言われているような、そんな困難な状況なのではないかと思います。
④人件費
グラフの上から2番目のオレンジ色折れ線が「飲食フード系」の時給の推移を表しています。これを見ると、2021年11月から2022年1月にかけて100円以上の時給上昇が見られます
最近、新聞などの記事でも度々取り上げられている通りですが、飲食業界において人手不足が顕著で、それが時給の上昇圧力を生んでいると考えられます。
この人手不足は言葉にすると単純ですが、経営上、深刻なリスクだと思っています。
⑤賃料
図表1については、グラフ上の青色折れ線が飲食店可のテナント賃料の推移を表しています。東京9エリア合計においては上昇傾向が見らるようです。
一方で募集物件数(つまり空き物件)の推移を見ると、コロナ禍が始まった20年上期から上昇傾向にあるものの、段々と空き物件数減少している傾向にあることが分かります(とは言え、コロナ前と比べるとテナントの空きはある)。普通に考えると、空き物件が多くなると賃料は減るはずなのですが、単純ではないようです。別の話ですが都内の中古マンションなどの価格も高騰していますよね。
原材料や人件費が高騰している中、せめて賃料が下がって欲しいところです。
3.DXとは何か
私の考え(結論)を先に述べます。
・DXという定義は様々存在するが、これが正しい定義というものはなく、文脈の中で意味を判断すべき。
・重要なのは、その企業において何をしたいのか。DXの目的を正しく整理/定義付けをして、関係者間で共有すること。
たまに評論家っぽい方が、「その定義は間違っている!」と騒がれることがあります。
確かに定義は大事です。それを否定するわけではありません。
一方でIT業界の単語はどれも抽象的で、それぞれの単語自体は単純だったりするものですから、人によって解釈が割れるのも仕方ないことではないかと思います。
例えばSE(システムエンジニア)ですら、単純な単語にも関わらず定義がバラバラだと思っています。
というところで、座談会で説明したDXに関する定義は以下の3つです。
①最初にDXという言葉を誰が使ったのか
これについては、2004年にスウェーデン大学教授のエリック・ストルターマンが論文の中で「digital transformation」という言葉を使ったのが最初だと言われています。
ちなみにDXのDは「digital」のDですが、Xは「transformation」のtrans = cross(変える、交差する)→ つまりX、ということでDXと省略されています。
この論文の中ではDXにビジネス色はありません。
②経済産業省 DXレポート
IDC Japanの定義が抽象的で分かり辛いかもしれませんので、私の言葉で要約すると以下だと思っています。
外部環境の激しい変化(特に脅威)に対応する為に
IT技術(それもレガシーではない新しい技術)を活用して
単にプロセスを変えるだけにとどまらず、企業の組織文化をも変革させ
新しいビジネスモデルを創出し、競争優位性を確立すること
外部環境の脅威の中で企業が生き残っていくための手段の一つがDX、そういう捉え方なのかなと思います。
③よく見かける3つの段階による分類
DXコンサルタントという肩書の方が使っていることが多いと思われる段階的分類です。デジタルトランスフォーメーションに至る段階は以下の①→②→③の順であると整理しています。
①デジタイゼーション
②デジタライゼーション
③デジタルトランスフォーメーション
ぐぐると色々と引っかかると思いますので、ここでの説明は省略します。
実例でDXをより理解する
座談会ではくら寿司のモバイルオーダーと、焼肉きんぐの配膳ロボットについて説明しました。詳細はここでは割愛します。
質疑応答
私自身が大企業向けのシステム開発を本業としていますので、話の内容も中小企業向けではありませんでした。その為、質問を様々いただきました。
いくつかやり取りをご紹介します(内容は少し変えています)。
尚、回答はあくまで私の主観ですので、正しいかどうかの解釈はお任せします。
質問①
モバイルオーダーや配膳ロボットは確かに便利そうだが、小規模店舗に導入するにはコスト面でハードルが高いのではないか。他に何か小規模店舗向けに導入できそうなお勧めのサービスはあるか。
回答①
確かに仰る通り、モバイルオーダーや配膳ロボットは小規模店舗に導入するにはまだまだイニシャルもランニングも高いと思います。IT導入補助金を使ったとしても最初の設定なども個人がやるにはハードル高いです。
なのですが敢えて挙げるなら、クラウドのPOSレジかなと思います。
商品単位で売上管理することで、メニューの入れ替えにも役に立ちます。この辺のデータがないと改善案立てにくいはずです。
質問②
モバイルオーダーは高価格帯のお店には入れるメリットがないのではないか。顧客との対話などを大事にしている店員もいる。その辺をどう考えているか。
回答②
高価格帯のお店にとってはモバイルオーダーを導入するメリットはないと私も考えます。一方で、チェーン店などのホスピタリティを大事にしつつもサービスを均一化したい業態の場合にはモバイルオーダーは刺さるはずでです(事実導入が進んでいます)。
質問③
自社でDXを進めようと思っても難しい。話の中にあった「③よく見かける3つの段階による分類」の「①デジタイゼーション」ですら達成できていない会社がコストをかけずに、DXと言わないまでもIT化を進めるにはどうすれば良いのか。
回答③
望まれている回答ではないと思いますが、ご質問に対する万能の解決策はないと考えます。まずはシステム担当者を1人立てて、その方に責任をもって周りを少しずつ啓蒙していってもらう、というのが結局良いと思います。もちろん、トップ層の協力は不可欠です。それでも時間はかかると思います。
最後に
久しぶりに話をしました。
いつも思うのですが、時間が足りなくて早口になってしまうので、次は良い塩梅にしたいものです(と毎回反省しています)。
知っているつもりになっていることも、事前に調べる過程の中で学びがあって良いですね。
終わった後にご質問を受ける度に冷や汗が止まらなくなるのですが、これもまた良い経験です(慌てすぎてたまに言葉がおかしくなるのも、いい加減どうにかしたいところです・・・)。
中小企業診断士や創業支援という観点で話をするのが私にとってはまだ難しいのですが、それでも何かしら皆さまに残るものがあれば幸いです。