玉笹さんちの大晦日
キッチンではコトコトとつゆを煮詰めていく音と私がネギを切るトントンという音が響いている。
リビングからは花菜が宿題をしているのでシャーペンがノートを駆け回るさらさらという音が聞こえてくる。
今年ももう7時間もない。そんな年の瀬の静謐を打ち破ったのは何ひとつ変わる事のない我が姉、玉笹彩美だ
「彩乃ーっ!ちょっと手ぇ貸して!」
「何を藪から棒に。ネトゲ代わってとかなら断るよ。大体ご飯前なんだからさっさと降りてきなさいってお昼の時にも言ったよね」
「いやあたしと彩乃じゃないとダメなんだって!年越し配信前に来年度最初の動画『令和2年に双子で恋ダンス踊ってみた』撮っておきたいんだって!」
「はあ!?何言ってるの!?いくら頼まれても私踊らないからね!」
「そこを何とか!ちゃんと掃除もするしバイトの後に家の手伝いもするから!」
腰に巻きつくように抱きついてくる。火と包丁を使っているタイミングなので真面目にやめてほしい。そんな騒ぎを聞きつけた花菜がキッチンにやってきた
「みーちゃん、のーちゃん今刃物と火をつかっているから危ないよ。」
「そうだね!流石カナ!しかし彩乃が嫌って言うならカナに頼むしかないかなー!『姉妹で恋ダンス踊ってみた』になっちゃうけど仕方ないなー!」
何を言っているのだろうか。いくら姉と言えど花菜の可愛さを独り占めした上で公共の電波に乗せて発信しようなどと神をも恐れぬ狼藉ではないだろうか
「わかったやる。アンタの欲望に満ちた目線で花菜を汚すわけにはいかないからね」
「さっすが彩乃話がわかる!それはそうと目線云々に関しては後で話し合いね。お揃いの服にするから火と包丁何とかしたら部屋に来て。あっカナも勿論見に来てね!」
そう言い残すと彩美はスタコラサッサと部屋に戻ってしまった。花菜の方を見ると…両の瞳を爛々とさせている
「みーちゃんとのーちゃんの双子のシンクロニシティを生で観れる…これは研究のチャンス…!」
そう呟くと先ほどまで聴こえていたさらさらと言うシャーペンの音はバリバリと形容する程の勢いになっていた
急いで宿題を終えてみーちゃんのーちゃんの部屋に着いた私はまずノックをします。姉妹と言えど礼節は大事
「はーい!どうぞー!」
許可を貰ったのでドアを開ける。みーちゃんとのーちゃんは…着替えを終えていました。みーちゃんはいつものフリルたっぷりのピンクのロリータファッション、のーちゃんは…何とみーちゃんの色違い!まずは形から。双子コーデの基本に忠実ですが着けているアクセサリーの随所にシルエットを崩さない程度にのーちゃんらしさが表れています
「それではカナも来てくれたので、撮影係をお願いします!」
「任されました。一意専心」
私にカメラを渡したみーちゃんは伸びをしたりストレッチをしています。のーちゃんの視線は手元のスマートフォンに集中しています。どうやらお手本の動画を参考にしているようです。やがてのーちゃんの視線が上に上がると
「行くよ、彩美」
「じゃあまずはソロパートから音楽かけるよ。カナ、よろしくね!」
「さん、に、いちで行きます。さん、に、いち!」
みーちゃんのPCからイントロが流れ出します。流石はアイドル志望なだけあってみーちゃんのダンスは可愛らしいです。のーちゃんは多少のぎこちなさと照れがあるもののしっかりと踊りきる事ができました。ここからが本番です。ふたりで踊るパートに入るとのーちゃんの動きからぎこちなさが消えてみーちゃんの振り付けと寸分違わぬユニゾンを見せ始めます。本当に不思議でならない。なぜ二人でひとつの事をやるとここまで息が合うのか。今年だけではわからなかった。来年も探求していつかはわかる日が来る事を神社で願おう。そんな事を考えていると音楽が止まったのでカメラを止めます
「さっすがカナ!ありがとうね!あと彩乃も。さてこれから編集しないと。令和2年投稿一番乗りしたいもんね!」
「だからもうすぐ晩ご飯だって言ってんでしょバカ美!年越し蕎麦なんだから伸びる前にさっさとリビングに来なさいよ!」
えーっ!とぶー垂れるみーちゃんを放ってのーちゃんは着替えると部屋から出ていってしまいました。わたしも流れで部屋から出ます
「カナーッ!お姉ちゃんを見捨てないでー!」
「花菜はアレに付き合わなくていいからね。でも彩美も今年一年頑張ってたんだし天ぷら一個多く載せてあげるか」
やっぱりのーちゃんは優しいです
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