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【創作】たけし先輩との100日間#08
#8日目「屁こきたけし」
腹が減らなくなったとはいえ、なんとなく口寂しくなってきた。ぼくたち人間はきっと食欲だけで食事をするわけではないのだと悟る。
「なんか見えてきたな」
たけしが眉のあたりで手を水平に伸ばし遠くを伺う。ぼくもつられて遠くを見ると、ヤピの木を両翼に添えた赤土の歩道が見えてきた。その先にはサファイア色に輝く湖と、それを横断する白壁で囲まれた、円形の巨大な城塞都市が見えてきた。
壁の内側にはオレンジや黄色、ピンクに緑と色とりどりの屋根つき家屋が、螺旋状に並んでいる
砂漠のオアシス都市を思わせるが、ぼくの知る世界のものよりもっと文明が発達していそうに見える。なにより南国のムードが漂っている。
「ここですか?」
「うーん、なんだろう、ここ。よく知らないけど行ってみるか」
「たけし先輩の世界じゃないんですか」
「いんやー、お前だって知らない国や街はあるだろ。わかんねえなあ」
「それもそうですね」
妙な説得力と、屁をブッとこいて相槌をうつたけし先輩の豪胆さに、やはり大物かもしれないと思う。途中で適当にと言いながら手際よく靴を編んでくれたことで、その屁も何かの合図のように感じる。
日差しは暑いが肉体の疲労感はどうやら気のせいのようだ。この世界の摂理に次第に飲み込まれつつあるのを感じたが、考えすぎても仕方ないと無視をすることにした。
さっきからブッブッと一歩進むごとに屁をこくたけし先輩を除いて。