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【創作】たけし先輩との100日間#04
#4日目「亜空のたけし」
顔を弾かれたたけし先輩の顔が悲鳴とともにまた空間に消えた。
「先輩?!」
ぼくは消えた先を追いかけるようにして手を伸ばした。しかし、その指先がその空間に触れた瞬間、熱波のようなものが腕を包み込む。同時に、ぼくの手が亜空に飲み込まれ見えなくなった。
手の感覚はあるのに、たけし先輩のいたあたりから先に行こうとすると、まるでこの世界の端に触れたかのように身体が消えていく。
『ここは世界の端っこなんだ』
という考えが頭を過ぎる。
指を動かせば、何かに触れているような感覚もある。なんだかホウキの毛先のような、カピバラの毛並みのような。よく知っている手触りだ。ただ、この異様な状況に、考えを整理する余裕がない。
手を引っ込めてみると、確かに腕はついていた。どことなく日焼けをしているような気もするが、木陰が腕に影を落としているせいかもしれない。
「早く! こいよ!」
たけし先輩の声がまた亜空間から聞こえる。その方角にはただカラマツの林が続いているが、確かに彼は目の前にいる気がした。ぼくはもう一度その声のする方に腕を突っ込むと、またさっきの毛の束のようなものに触れた。今度は思い切って掴んでみた。
「痛え!」
たけしの悲鳴が亜空間の奥から響いた。そうか、髪の毛だと思うも、束の間ぼくは身体ごとその髪の毛に引っ張られた。全身を熱波が襲った。景色がぐにゃりと揺れた。