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12/23 プログラム・ノート⑨ル・グラン・タンゴ


ピアソラ : ル・グラン・タンゴ
保守的なタンゴ愛好家からは「タンゴの破壊者」とまで呼ばれたアストル・ピアソラ(1921-1992)は、確かにアルゼンチン・タンゴというひとつのジャンルの枠内に留まる存在ではなく、彼の名前自体がひとつの独立した音楽ジャンルとなっている、と言っても過言ではないでしょう。クラシックの作曲家を志してパリに留学するも、師のナディア・ブーランジェの慧眼から「タンゴこそ自分の原点」と目覚めたエピソードは有名です。クラシック界にも多大な影響を与えたピアソラは、また特定のクラシック演奏家のためにもいくつか作品を残しており、このル・グラン・タンゴもそのひとつですが、献呈された大チェリスト、ロストロポーヴィチは、偏見から8年も曲を放置、他人の奨めで作品の魅力に気付くも、恣意的な改変をして録音、と、あまり被献呈者の名誉にならないエピソードが出てきます。おそらく彼のチェロ演奏に敬服し定冠詞付きの「大タンゴ」を捧げたにもかかわらず軽んじられたピアソラの心中も察するに余りありますが、現在多くのチェリストに名曲と認知され、演奏されているのは救いです。 

ピアソラの他の作品同様、タンゴとして大幅な編曲を施して演奏されることもありますが、今回演奏するのは、原曲のピアノパートはそのまま維持し、チェロパートをホルン2本に振り分けた編曲となります。1本のホルンで演奏するにはあまりに息の長い旋律線、揺れ動く複雑で陰影豊かな感情、終盤の執拗なまでの繰り返しがもたらす白熱、お楽しみいただけますように。

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