JVAの肖像権規程を読み解いてみた
公益財団法人日本バレーボール協会(以下「JVA」)の肖像権規程が分かりにくいという話を聞いて読み込んでみたので、備忘も兼ねて整理してみます。
なお、下記に挙げる規程では、選手だけでなくチームスタッフや役員等の肖像についても定められていますが、以下では選手についてのみ取り上げています。
前提:JVAとVリーグ機構
JVAは、バレーボールの国内競技連盟で、各都道府県のバレーボール協会や高体連・中体連のバレーボール部門などがJVAの加盟団体になっています。
これに対して、一般社団法人日本バレーボールリーグ機構(以下「Vリーグ機構」)は、V.LEAGUE(V1・V2・V3)を主催する団体で、Vリーグ機構もJVAの加盟団体の1つです。
つまり、JVAが主催する大会(いわゆる「公式戦」)に参加するためには、プロ・アマ問わず、どのカテゴリーであってもJVAに選手として登録する必要があります。
その上で、Vリーガーについては、Vリーグ機構にも選手として登録されることになります。
※Vリーグの登録選手には、プロ選手だけでなく、チームの母体企業の社員や関連企業からの出向社員も含まれるため、厳密には、「Vリーガー=プロ選手」というわけではありません。
JVAとVリーグ機構の肖像権規程
JVAは、「JVAメンバーの肖像権等に関する管理・運用規程」(以下「JVA規程」を策定しています。(https://www.jva.or.jp/topics/uploads/1496/320587195521a98a98d3710416a3d6d1.pdf)
また、Vリーグ機構も、「登録構成員の肖像権等に関する管理・運用規程」(以下「Vリーグ規程」)を策定しています。(http://vleague.or.jp/files/pdf/09_image_right.pdf)
以下、選手のカテゴリーごとに肖像権がどのように扱われているのかを見ていきます。
1 アマチュア選手(Vリーガー・Vリーグ内定選手以外の選手)
JVA規程では、JVAメンバー(JVAに登録している選手)の肖像について、以下のように定めています。
つまり、JVA規程では、JVAに登録している選手については、全ての選手が肖像権の管理・運用をJVAに委託することが原則とされており、Vリーガー・Vリーグ内定選手以外の選手が肖像権を自分で管理しようとするときは、JVAに対して、「肖像権 自己管理宣言書」(以下「宣言書」)を提出しなければならないとされています(しかも、宣言書は、毎年度提出しなければなりません)。
宣言書をJVAに提出すれば、その選手についてはJVA規程が適用されず、選手自身が肖像権を自由に管理することができますが、現実問題として、この宣言書を提出している選手がいるのかどうかは疑問です。
(おそらく大多数の登録選手は、自分の肖像権がJVAに管理されていることを知らないのではないかと思われます)
宣言書を提出していない場合にはJVA規程が適用され、選手の肖像権は全てJVAが管理・運用することになります。
その結果、例えば、バレー部の写真を学校の宣伝に使おうとする場合、所属選手の肖像を無償で使用することはできるものの、その都度、事前にJVAから承諾を得なければならないという建付けになっています。
また、JVAに登録している選手は、広告出演やメディア出演をする場合は、事前にJVAの判断に従わなければならないこととされていますし、高校生以下の選手については、そもそも広告出演が禁止されています(JVA規程14条)。
高校生以下の選手について、JVAに登録しているという理由だけで、(JVA規程上は)バレーボールと全く無関係の広告等であっても出演を禁止するという規定は、宣言書を出せば禁止が解除されるとしても、選手の権利を一方的に制約するもので法的には無効と考えざるを得ないのではないかと思われます。
(感覚的にも大きなお世話としか思えません・・・)
2 Vリーガー(Vリーグ機構登録選手)
(1)適用される規程
VリーガーもJVAの登録選手であるため、本来であればJVA規程が適用されて、JVAが管理・運用することになるはずです。
しかし、JVA規程上、Vリーガーについては、JVAからVリーグ機構に肖像権の管理・運用が委任され、JVA規程ではなくVリーグ規程が適用されることになります。
(JVAのプロモーション活動に利用する場合等、一定の場合はJVA規程が適用されます)。
(2)肖像権の管理・運営主体
上記のとおり、Vリーグ規程が適用されると、選手の肖像権の管理がJVAからVリーグ機構に委託されますが、肖像使用の対象となる選手が1名の場合または同じチームの複数名である場合には、Vリーグ機構からその選手の所属チームの母体団体に対して、肖像権の管理・運営が再委託されます。
※「母体団体」とは、所属チームを運営する組織としてVリーグ機構の社員資格を有する団体をいいます(Vリーグ規程第3条(3))。
例えば、サントリーサンバーズの選手の肖像を使用する場合は、母体団体であるサントリーホールディングス株式会社に再委託されることになります。
これに対して、異なるチームに所属する複数名の選手の肖像を使用する場合には、Vリーグ機構が肖像権の管理を行います。ただし、チームが別であっても、その母体団体が同一である場合は、母体団体が管理します。
例えば、東レアローズの選手とサントリーサンバーズの選手の肖像を使用する場合は、チームも母体団体も異なるため、Vリーグ機構が肖像権の管理を行います。
他方、JTサンダース広島とJTマーヴェラスの選手の肖像を使用する場合には、チームは異なるものの、母体団体はどちらも日本たばこ産業株式会社(JT)であるため、JTに再委託されることになります。
(3)肖像の使用
母体団体は、選手の承諾を得た上で、肖像を使用することができ、Vリーグ機構も、選手・母体団体の承諾を得て、肖像を使用することができます。
また、母体団体・Vリーグ機構は、選手(・母体団体)の承諾を得て、選手肖像の使用をクライアント(スポンサー)に許諾することもできます。
そして、母体団体やVリーグ機構が選手肖像を有償で使用した場合、肖像使用料の配分について、当事者間で合意がなければ、以下の割合で分配されることになります。
3 Vリーグ内定選手
Vリーグ内定選手は、Vリーグに所属するチームに内定しているだけで、Vリーグに登録されているわけではありません。
また、Vリーグ規程は、あくまで「Vリーグに登録された選手」について適用されるものなので、Vリーグ内定選手については、本来、Vリーグ規程は適用されないはずです。
しかし、JVA規程では、Vリーグ内定選手について、①Vリーグチームのユニフォームを着た肖像権は、JVAからVリーグ機構に委任する、②私服での肖像権もVリーグ機構に委任する、③高校・大学等、Vリーグチーム以外の所属チームの肖像権・全日本としての肖像権はJVAが管理する、という整理がされています。
この点、Vリーグ規程では、「Vリーグもしくは所属チームの呼称が使用された肖像等」を規程の適用対象としているため、これによって、①Vリーグ内定選手がVリーグチームのユニフォームを着用した肖像等については、Vリーグ規程が適用されることになります。
また、③高校・大学等、Vリーグチーム以外の所属チームの肖像権・全日本としての肖像権はJVAが管理するというのも、JVA規程の内容からして当然です。
これに対して、②Vリーグ内定選手の私服による肖像をVリーグ機構が管理すると定めている点については、内定選手はVリーグの登録選手ではなく、Vリーグチームの呼称も使用していないため、Vリーグ規程における肖像権の対象には含まれないはずです。
(上記のVリーグ規程第4条(1)①で、日本代表チーム・Vリーグ機構以外の組織に所属するチームの構成員としての肖像等を除くものと定められているため、一見すると私服での肖像もここに含まれるようにも思えますが、ここでは、「登録構成員の肖像等のうち」という限定がついており、内定選手は登録構成員ではない以上、この要件は満たしません。)
そのため、Vリーグ内定選手の私服での肖像について、JVAからVリーグ機構に管理が委任されたとしても、Vリーグ規程が適用されるという建付けにはなっていないはずですが、事実上、この場合もVリーグ規程が適用されているのではないかと思われます。
4 日本代表選手
日本代表にも様々なカテゴリーがあるので、①Vリーガー(内定選手を含む)ではない場合(例えば、高校年代の日本代表)と②Vリーガー(内定選手を含む)の場合に分けて考えます。
①Vリーガー(内定選手を含む)ではない場合
この場合、選手はJVA登録選手であり、かつVリーグ登録選手ではないので、原則通りJVA規程が適用されます。
ただし、日本代表として肖像使用については、「全日本の肖像権規程」に則って管理・運用されることとされています。
(ただ、調べた限り、「全日本の肖像権規程」という規程は公開されていませんでした・・・)
JVAのホームページによると、日本代表選手の肖像については、バレーボール・ビーチバレーボール日本代表チームの協賛社以外の企業の商業活動には利用できず、個人使用に限って、SNS等での公開が認められているようです。
(https://www.jva.or.jp/jva/marketing.html)
②Vリーガー(内定選手を含む)の場合
この場合、Vリーグ登録選手であるため、Vリーグ規程が適用されるはずですが、JVA規程では、Vリーグ登録選手であっても、「全日本としての肖像」については、JVA規程が適用されるという建付けとなっています。
そのため、Vリーガーであっても、日本代表選手としての肖像は、JVA規程第16条によって管理されることになります。
補足:肖像権の範囲
JVA規程では、JVAの管理・運用対象となる「肖像」の範囲が非常に広く定められています(Vリーグ規程も同様)。
つまり、個人の容貌や氏名という本来的な「肖像」だけだなく、サインやニックネームなどについても、JVAが管理するという建付けになっています。
例えば、Vリーガーや日本代表選手の場合には、サインやニックネーム自体に顧客吸引力が認められる場合があるため、これらを無断で商用利用されることで選手自身やJVA・Vリーグ機構のスポンサーの利益を害されないよう、JVAやVリーグ機構が管理・運用するということも理解できます。
しかし、それ以外の選手についてまで同様の扱いをすることには合理性がないと考えられます。
JVA規程第2条を前提とすると、JVAは「Vリーガーや日本代表選手以外の選手についても、肖像の無断利用から保護する必要がある」という趣旨で上記のような定めとしているのではないかと思われます。
しかし、例えば、アマチュア選手の写真がインターネット上に無断でアップされた場合に、その都度、JVAが削除要請をすることは現実的に不可能と思われます。
(ただ、現在の規定では、JVAが選手の肖像を適切に管理・運用する義務を負っているため、JVAはこのような対応をしなければならないことになります)
したがって、現在のJVA規程の建付けでは、JVAが管理しなければならない肖像の範囲が非常に広範であり、むしろ適切な対応が困難になってしまうのではないかと思われるため、例えば、アマチュア選手についてはJVA主催の大会時の肖像についてのみ、JVAが管理・運用するといった内容とするのが望ましいのではないかと思われます。
(JVA以外の国内競技連盟の肖像権規程などもこのような建付けとなっていることが多いと思われます)
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