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栃木シティFCスタジアム判決についての考察

先月、スポーツ関係者に衝撃のニュースが飛び込んできました。

また、三浦知良選手の加入で話題となっている鈴鹿ポイントゲッターズの運営会社が建設予定のスタジアムについても、反対派の市民団体が、上記判決を根拠にスタジアム建設の中止を求める事態となっています。


判決文を確認できたので、早速、判決の内容について検討してみます。


事案の概要

宇都宮地判令和4年1月27日判決(以下「本判決」)の判決文によると、事実関係は概ね以下のとおりです。

岩舟総合運動公園(以下「本件公園」)は、栃木市が設置管理する都市公園法上の都市公園であり、令和2年9月頃まで、公園施設として、サッカー・野球・陸上競技のために使用することができる多目的グラウンド(以下「多目的グラウンド」)があった。
令和2年3月23日、栃木市と株式会社日本理化工業所(以下「本件会社」)は、以下の覚書を締結した。
① 本件会社は、多目的グラウンドにサッカー専用スタジアム・サッカー専用天然芝練習場及びこれらの整備に付帯して必要となる施設(以下「本件スタジアム」)を設置し、栃木シティFCのホームスタジアム及び練習場として利用する。
② 本件会社は、栃木シティFCの利用に支障がない範囲で一般利用者に貸し出しを行うことができ、貸出によって得た収入は本件会社が取得する。
③ 土地使用料については、栃木市公園条例22条に基づき免除する
④ 本件スタジアムに対して課税される固定資産税につき、公園施設の設置管理許可申請の期間(最大10年間)は、栃木市税条例54条により免除する
(以上、抜粋)

本件会社は、栃木シティFCを運営する株式会社THE TOCHIGI CITY UNITED(以下「本件運営会社」)の親会社です。

令和2年3月24日、栃木市は、本件会社に対し、設置期間を令和2年4月1日〜令和5年3月31日までとして、本件スタジアムの設置を許可した(以下「本件許可」)。
令和2年4月1日、本件会社は本件許可に基づき、本件スタジアムの建設工事に着工し、令和3年4月頃に完成した。

なお、建設費は約17億円、年間の維持管理費は約7000万円であり、これらは全て本件会社の負担とされています。

また、免除が認められなかった場合、これに加えて、固定資産税が年間約300万円(市の試算)、使用料が年間約1200万円程度かかるようです。

そのため、固定資産税や使用料の免除が認められるかどうかは、本件会社の事業計画上、非常に重要な問題であったと思われます。

原告(栃木市在住の住民ら)が被告(栃木市長)に対して、
① 栃木市長が本件スタジアムに課されるべき固定資産税を将来免除することは、栃木市税条例71条1項4号所定の要件を満たさないとして、固定資産税の免除の差止め
② 栃木市公園条例22条所定の要件を満たさないにもかかわらず、栃木市長が本件会社から本件公園の使用料の徴収を怠っているとして、令和2年4月1日〜令和3年2月24日までの間の本件公園の使用料1225万1634円を請求しないことが違法であることの確認
をそれぞれ求めて住民訴訟を提起した。


なお、住民訴訟を提起する場合、その前に住民監査請求をしなければならないこととされていますが、住民監査請求については、いずれも理由なしとして棄却されています。

(決定書:https://www.city.tochigi.lg.jp/uploaded/attachment/33056.pdf

争点

① 固定資産税免除の差止めを求める訴えの適法性(省略)
② 固定資産税免除の適法性
③ 公園施設の使用料免除の適法性

以下、②と③の争点について見ていきます。

裁判所の判断

【争点②】固定資産税免除の適法性について

1 固定資産税免除の根拠となった規定

地方税法367条は、「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。」と定めている。
これを受けて、栃木市税条例71条1項は、市長が以下の場合に固定資産税を免除できると定めている。
① 貧困により生活のため公私の扶助を受ける者の所有する固定資産税(1号)
② 公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)(2号)
③ 市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により、著しく価値を減じた固定資産(3号)
④ 前3号に掲げるもののほか、特別の事由があるもの(4号)

栃木市長は、本件スタジアムが地方税法367条を受けて制定された栃木市税条例71条1項4号にいう「特別の事由があるもの」に該当するとして、本件スタジアムに課される固定資産税を免除しました。

そこで、本件スタジアムについて、「特別の事由」が認められるのか、そもそも「特別の事由」とはなにかという点が問題となりました。

2 「特別の事由があるもの」の解釈

本判決は、どのような場合に「特別の事由があるもの」に当たるのか(市長が固定資産税を免除することができるか)について、以下のように判示しています。

地方税法367条の定める固定資産税の減免は、地方税法6条が定める課税免除等とは異なり、法令及び条例の定めるところにより市町村が一旦課税権を行使して地方税債権が発生した後に、市町村長がこれを放棄するものであり、減免し得る事由を天災や貧困その他特別の事情に限定していることなどに照らすと、本来的には、徴収の猶予、納期限の延長等によっても到底納税が困難であるような担税力の薄弱な者に対する個別的な救済措置として規定されたものである。

この部分は、地方税法367条による固定資産税の法的効果から、同条の趣旨を導くものです。

簡単に言うと、本来、課税対象になるものを市長だけの判断で免除するのだから、限られた場合にしか認められませんよ、ということです。

上記の趣旨からすると、栃木市税条例71条1項4号にいう「特別の事由があるもの」とは、当該固定資産がその性質上担税力を生み出さないような用途に使用されている場合など、租税負担の公平の観点からみても、同条1条から3号までの事由に準ずるような固定資産税の減免を相当とする程度の強い公益性がある場合における固定資産税をいうと解するのが相当である。

このように、本判決は、「特別の事由」が認められるためには、1号から3号と同程度の強い公益性が必要と判示しています。

この「強い公益性」の判断に当たっては、「その性質上担税力がないこと」が必須の要件であるのか、それとも担税力があっても一定の場合には「強い公益性」が認められるのかという問題がありますが、以下のあてはめ部分の内容からすると、裁判所としては「担税力がないこと」は必須の要件ではないと考えているものと思われます。

3 本件におけるあてはめ

本判決は、上記解釈を前提に以下のような認定をして、「特別の事由」には当たらず、固定資産税を免除することはできないと判断しました。

① 本件スタジアム等は、本件会社の子会社が運営する栃木シティFCのための施設であり、会社の「営業のための施設」であるため、性質上、担税力を生み出さないような用途に使用されているものとはいえない。

この部分は、「当該固定資産がその性質上担税力を生み出さないような用途に使用されている場合など」という解釈に関するものです。

栃木市や本件会社としても、栃木シティFCのホームスタジアムとすることによって一定の経済効果が生まれる(その結果、栃木シティFCやその運営会社・親会社も収益を得る)ことを前提としているため、スタジアムがその性質上、担税力を生み出さない用途ではないという認定はやむを得ないものと思われます。

② 栃木市が主張する本件スタジアムや栃木シティFCがもたらす経済効果についても、固定資産税の減免を受けることなく栃木市に同様の又はそれ以上の経済効果をもたらしているであろう他の多数の固定資産やその所有者と比較しても、本件スタジアムや栃木シティFCの活動について、固定資産税の減免を相当と認めるだけの強い公益性があるとはいえない。

この部分は、仮に栃木シティFCのホームスタジアムとすることによって、一定の経済効果がもたらされたとしても、それと同程度又はそれ以上の経済効果をもたらしている施設(例えば、多数の消費を生み出す大型ショッピングモールや多数の労働者を雇用している工場など)については固定資産税が減免されておらず、これらの施設と比較しても本件スタジアムに強い公益性があるとはいえないと指摘しています。

つまり、スタジアムを担税力のある用途で使用しているのであれば、同じく担税力のある用途で使用している建物(ショッピングモール等)と違って、なぜ固定資産税を減免しなければならないのかを説明できなければならないと言っています。

この点に関して、栃木市は、本件スタジアムは、経済効果以外にも、本件スタジアムや栃木シティFCによって、栃木市の知名度が向上する、高齢化・人口減少が進む栃木市において賑わいを創出できるという点を主張していますが、この部分の判断においては全く触れられることなく、「強い公益性があるとは認められない」と結論だけが示されています。
(もちろん、知名度や賑わいについては定量的な認定が難しいため、やむを得ない面はあると思われます。)

ただし、公園の使用料と異なり、税金という性質上、公平性が重視されるのは当然であり、裁判所のいう「強い公益性」があることを論証するのは簡単ではないと思われます。


【争点③】公園施設の使用料免除の適法性

1 使用料免除の根拠

都市公園法18条を受けて制定された栃木市公園条例は、11条において、都市公園法5条1項の許可を受けた者は、使用料を納付しなければならないことを定めています。
もっとも、栃木市公園条例22条は、市長は、公益上その他特別の理由があると認めたときは、使用料を減額し、又は免除することができると定めており、本件においても、この規定を根拠に使用料が免除されています。

そこで、本件における使用料免除に「公益上その他特別の理由」があるかどうかが争点となりました。

2 裁判所の判断

【栃木市の主張①】
本件スタジアムが栃木シティFCのホームスタジアム・練習場として使用されることにより、栃木市内が賑わい、栃木市の知名度が上がり、栃木市の経済の発展につながるため、使用料免除には合理性がある。

これに対して、裁判所は、栃木市は、栃木シティFCのホームスタジアムとなった場合の経済効果を試算しているものの、以下のⅰ〜ⅴの事情を指摘して、栃木市の主張は認められないと判示しています。

ⅰ そもそも当該試算の前提となっている各数値が将来予測に当たって的確なものであるか証拠上不明である
ⅱ 試算の結果が年間消費額の算出にとどまっており、栃木シティFCがホームスタジアムとしなかった場合の年間消費額との比較がないことから、使用料を免除してまで栃木シティFCを誘致すべきかどうかの判断材料になり得ない

ⅰ についてはどのような資料を証拠として提出しているのか不明ですが、ⅱ については栃木市側の主張・立証が不十分であったものと思われます。

ⅲ そもそも栃木シティFCの前身が相当以前から栃木市に活動の本拠を置くサッカーチームであったことに照らすと、新たにホームスタジアムを設置したことによって、栃木シティFCの試合の観客等の栃木市内における年間消費額に大きな変化が生じるものとは考え難い

ⅲ については、(立証できるかは別として)新しいサッカー専用スタジアムが完成することによって観客が増加して消費が増進することは十分にあり得るため、裁判所の判断には疑問があります。

ただし、上記 ⅰ や ⅱ からすると、この点についても立証が不十分だったのではないかと推測されます。

ⅳ 栃木シティFCがJ3に昇格した場合の試算をしているが、現在、関東サッカーリーグ1部である栃木シティFCが今後、J3に昇格する見込みがどの程度あるか不明である

ⅳ については、関東サッカーリーグ1部とJFL、J3では、栃木市にもたらす経済効果に差が生じるのは当然であり、この点が問題となるのはやむを得ないと思われます。

ただし、昇格の見込みを証明することは不可能であるため、この点を重視されてしまうと、これからJリーグを目指すチームにとっては非常に厳しい判断となってしまいます。

ⅴ 栃木市は、スポーツチームの誘致に当たって土地使用料の減免をした他の自治体の例を指摘するが、将来の集客見込み、他の自治体と競合していたのかなどの点において事実関係が異なる

ⅴ は、「他の自治体でも減免している」という栃木市の主張に対応するものであり、前提事実が異なるので参考にならないと判断しています。


【栃木市の主張②】
本件運動施設を栃木市民がサッカー場や地元の祭等の会場として利用することができるようになることにより、栃木市民の生活上の福祉が向上する。

この点について本判決は、以下のように指摘しています。

一般向けの貸し出しが行われ、その使用料についても、栃木市民を優遇する価格設定となっているものの、栃木市民向けの使用料金であっても、周辺のグラウンドと比較してもかなり高額であり、一般利用がほとんど想定できないため、市民の利便の増進につながるとはいえない
(むしろ、以前の多目的グラウンドが廃止されたことにより、利便が後退している可能性すらある)

具体的な金額としては、栃木市民がサブグランドを土日に6時間借りた場合の使用料は18万円〜60万円であるのに対して、以前の多目的グラウンドをサッカー場として6時間借りた場合は3000円程度であったとの指摘がされています。

以前の多目的グラウンドと比較すると、本件スタジアムは設備が整っている以上、使用料が高くなること自体はやむを得ませんが、このような高額の使用料が設定されると、現実的には市民による利用はほとんど想定されないという点は判決の指摘のとおりと思われます。


さらに、裁判所は以下のように付け加えています。

仮に①②の主張が認められると仮定しても、栃木市以外の自治体が本件会社にサッカー専用スタジアムの誘致をしたことがなかったことは栃木市も自認しており、使用料を免除しなければスタジアムを誘致できなかったという状況であったとは窺われない

この点については、長年、栃木市で活動してきたチームである以上、栃木市以外から誘致を受けることは通常想定できないし、栃木市としても栃木市のチームであるからこそ誘致した(北海道を拠点とする日ハムが札幌から北広島市にホームタウンを移すのとは異なる)という事情を無視しています。

もちろん、複数の自治体が競合している場合であれば、誘致を勝ち取るために使用料を免除することの必要性を説明しやすくなるのは当然ですが、他の自治体が誘致をしていないからといって、直ちに使用料を免除する必要がないとはいえないはずです。



本判決は、最後に以下のような指摘をしています。

本件運営会社が、令和元年8月以降、サッカー専用スタジアムの整備地の無償貸与等を求めてから、この点について栃木市と本件会社との間にどのような交渉があったのか、また、本件運動施設設置後の本件会社及び本件運営会社の収益見込み及び本件会社の本件運動施設設置費用の回収見込みについて被告がどのように予測していたのか、については、証拠上、一切明らかにされていない。そうすると、栃木市にとって本件会社に本件運動施設を設置させることに一定の合理性があることを前提にしても、そのために本件会社が支払うべき使用料について、減額にとどまらず、免除までを行った被告の判断については、その合理性を肯定する余地がない。

このように、今回の訴訟では「なぜ使用料を免除してまで誘致しなければならなかったのか」という点についての主張・立証が不十分であったことが指摘されています。

また、市長の判断で決められる使用料の減免については例外的なものであるため、「公益上その他特別の理由」については限定的に理解されるべきとしつつ、

「公益上その他特別の理由」が肯定されるためには、その目的自体が国定資産税減免の場合と異なり公益性の強いものに限られないとしても、少なくとも客観的な根拠のある事実を基礎とした合理的な将来予測に裏付けられているものでなければならないのは当然のことである(そのような裏付けが乏しい場合であれば、条例の改正により議会の判断を経て、新たな使用料ないし使用料免除を定めるほかない。)。

と補足しています。

このように、裁判所も、固定資産税と比べれば、使用料についてはより緩やかに免除を認める余地はあるものの、あくまで例外的な取扱いである以上、少なくとも客観的な事実を基礎として、合理的な根拠をもって判断しなければならないとしており、この点は正当な指摘と思われます。

現実問題として、栃木シティFCのようにこれからJリーグを目指すクラブにとっては、「客観的な事実を基礎として、合理的な根拠をもって判断した」といえるだけの定量的な数値を出すことは簡単なことではありません。

ただ、本訴訟における栃木市の主張を見ると、特に経済効果について、本件スタジアムを建設して、栃木シティFCのホームスタジアムとすることによって、本件スタジアムがない場合と比べて、どの程度の経済効果があるのかという点について触れられていないようです。

「公益性」の判断には、経済効果以外の面も影響を与えると考えるべきですが、訴訟で争われた場合、経済効果以外の点(スポーツの持つ精神的な価値など)については立証することが難しいため、「将来、これだけの経済効果が見込まれるのだから使用料を免除してでも誘致するのが合理的である」と言えるかどうかがポイントになってくるのではないかと思われます。


また、判決が指摘するように、建設時点で将来的かつ抽象的な予測しか立てられないため、合理的な説明をすることが難しいということであれば、新たな条例を制定するか、条例を改正することにより対応することも検討する必要があります。

この場合、手続的には非常に重たくなってしまいますが、スタジアムを建設する側にとしても、手続コストと事後的に使用料の免除が取り消されて事業計画が狂ってしまうリスクとを天秤にかけて判断せざるを得ません。


おわりに


スポーツ庁としても、スタジアムやアリーナの建設に関して、民間活力を活用した事業方式、資金調達方式の導入を積極的に検討することを推奨しており、栃木市による固定資産税や使用料の免除は、このような流れを汲んだスポーツ界にとって非常によい取り組みであったと思われます。

特に、今回の栃木市の対応は、民間に建築資金・維持コストを負担してもらう代わりに、固定資産税と使用料を免除するというものであり、自治体側としてもリスクを算定しやく、運営会社側としても、運営コストを下げることで事業計画を立てやすいというメリットがあり、この点が判決において考慮されなかった点が非常に残念です。
(個人的には控訴審で争って欲しいと思っています。)



なお、本判決は、あくまで固定資産税や使用料の免除を認めることが相当でないと判断したにすぎず、都市公園内に民間所有のスタジアムを建設すること自体を問題視したり、スポーツやスタジアムに「公益性がない」と判断したものではありません。


冒頭で紹介した鈴鹿ポイントゲッターズのスタジアム建設に関して、本判決を根拠に、鈴鹿市内に建設予定のスタジアムが違法であるとの主張がされているようですが、上記のとおり、本判決はスタジアム建設の適否自体を判断しているわけではないため根拠にはなりません。




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