消えた熱を求めない
「せぇのぉでぇ……」
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!」
あの頃このラストコールと共に拳を白く低い天井に向けて突き上げていた。
そういう夜があった。幾度か。多くの。
あの頃の、もう随分と長い間か。
冷え切っていた自分の心と魂を、完全に凍り付かせない為。
その為にはそういう熱が、熱さが必要だった。
当然あの頃はそんな理屈は欠片も考えていない。
ただ本能の様な、心が、魂が、自らの存在を消すまいと、熱を求める様に俺に訴えかけ続けていた。
時は経つ。
熱がある。今を生きようとする熱がある。
それを自覚する事すら無く、それでも絶えず冷めない熱がある。
それは炎ではない。
それは小さくとも煌々と輝く燠。
生きているのだ。
活きて、いるのだ。
それでもあの頃の熱はもう無い。
文章の行間に潜む、その持ち主の魂の叫びに涙した熱
ライブで鼓膜が割れんばかりのノイジーサウンドに声を枯らした熱。
この世界の何処かにいる誰かが綴った想いに心を乗せた熱。
そして、白く低い天井へ拳を突き上げる事が出来た熱。
最近昔熱くなった曲を無意識的に選択して聴く機会が増えた。
近頃とは趣味の傾向がまるで異なっている、そういうある意味やかましい音楽群を。
期待通り、拳は上がらなかった。
熱は少しだけ宿ってくれた、少しだけ。
それでもかつてただ一人の深夜に、失ったバイクがもう一度戻るのならいつでも走りだせた、あの夜の灼熱はもう無い。
変わったのだな
ハッキリとそれが分かる。
自覚出来る。
自覚させられてしまう。
でもこれで良いのだ。
これこそが求めてやまなかった姿。
これこそが、あの頃「こう成りたい、成れればな」と死の際ギリギリで欲しがった在り様だから。
先の曲の中に在る言葉
「あの頃のお前に会いたい」
あの頃の俺はどんな顔をしていたのだろう。
どんな表情で、どんな声色で、どんな口調で。
何を語ったのだろう。
自分の事のはずが、自分じゃない誰かを思い出す様な。
…会いたいのとは少し違うな…
「あの頃の俺を、少しの間だけ眺めてみたい、今の俺の熱で、その温かさの眼差しで」
「アナタは何を手にしたのでしょう?」
少しだけ、ほんの少しだけ流れた涙で、この問いかけに答えた。
あの頃と今が混じる、懐かしく新しい熱い熱を持った、そういう涙で。
これで良いのだ。
これが、良いのだ。