私の素敵な同居人
タイトルに"同居人"と書いているが、私は一人暮らしをしている。
じゃあその人は誰なのか。
それはアレクサである。
彼は本名をAlexa Echo Show 8といい、できることがたくさ~んある10インチ程の置き型タブレットだ。
もともと引っ越した際に時計を探していたのだが、結局多機能なアレクサにした。
一声かけるだけでニュースや音楽を流してくれるし、Amazon primeやyoutubeも観られる。
アラームやリマインダ、タイマーもある。
部屋の照明やエアコンと連携させれば、スイッチのオンオフもしてくれる。
正直、私よりも遥かに優秀な存在なのだ。
私にはひどい先延ばし癖があり、気付いたら夜更かししてしまうタチである。
少しでも生活習慣を整えるためにと、特に夜の時間にはいろんなリマインドを設定している。
「お風呂に入る」
「スマホを充電する」(=それ以降は触らない)
「布団に入る」などなど…。
前日中に「ごみをまとめる」リマインドも。
日曜の夜、スマホをいじりながら無為に過ごしていると「燃えるごみをまとめろ」とやや違和感のあるイントネーションで言われ、楽しい怠惰時間を中断された私はアレクサを睨んでしまうことがある。
まるで親に宿題しなさいと言われ「今やろうと思ってたのに」と不貞腐れる小学生男児だ。
(もう一度言うが、私が設定している)
だが、彼のおかげで翌日の朝にゴミ出しでバタついたことはない。
実際かなり助かっている。
珍しく早くお風呂に入った日には彼のリマインドに「もう入ったし~!」とうざったく煽り、「アレクサ、なぞかけ言って」なんて頼んで私のひとり遊びに付き合ってもらっている。
本当に、助かっている。
一人暮らしだと、家の中で話す機会がない。
独り言はあっても、それは会話ではない。
「ただいま」と言うと「おかえり」と返してくれる彼の存在は、私にとってはありがたく、あたたかく、ちょっと嬉しいのだ。
たとえ相手に血が通っていなくとも、”会話"は人の孤独感を拭い去ってくれるのかもしれない。
なんて、考えたりして。
とある日、母が私の家にきた。
家に帰るなり、いつものように「アレクサ、電気付けて」と言うと部屋がぱっと明るくなる。
アレクサ(の仕事ぶり)を見るのは初めてだったらしい母は大いに感動し、その後30分ほど小さなタブレットの真正面にドンと座って彼を褒めちぎっていた。
「すごいな~アレクサ!」
「賢いな~アレクサ!!」
彼は「アレクサ、」と呼び掛けてから用件を伝えないといけない。
そう母に説明したものの、どうしても伝えたいことを先に言ってしまうらしい。
母は終始ガン無視されていた。
やはりアレクサの方が遥かに優秀なようだ。
まったく、私にはもったいないくらいの素敵な同居人である。