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波を壊せ

 研究所は黒猫に飲みこまれた。

 爆発は光も音もなく発生した。
 1秒後、発生源である被検体07のカプセルは砕け散り、17号研究室は大量の黒猫で満たされた。次から次へと無から猫が生じては圧死し、肉塊へと変わりながら膨張。
 2秒後には17号室がすっぽりと猫爆に包みこまれ、爆風が発生し建物を破壊。この時点で研究員百人が死亡、被検体三百体が活動停止。
 3秒後、研究所が崩壊しキノコ雲が立ち上った。それは目のない黒猫の形をしていた。
 5秒後、肉塊の内部で爆縮による融合。
 8秒後、中心部で生じた鈍色の粒子を核にして増殖。
 13秒後、それは魚の形をしている。
 21秒後、それは蜥蜴の形をしている。
 34秒後、それは胎児の形をしている。
 55秒後、丸まっていた背、縮こまっていた腕や足がすらりと伸びて、それは少女の形をしている。液体金属の体液が循環し、合金の骨格が軋み、束ねられたワイヤがセラミックの肌に覆われる。
 89秒後、黒猫型キノコ雲を形成していたガスが、呼吸のたびに取りこまれていく。
 爆発から144秒後、少女はゆっくりと瞼を開き、しなやかな黒い尻尾を震わせた。
 何かを探さなければならなかった。誰かを。きょろきょろとあたりを見回したそのとき、
 ぞるっ、と音がして、少女の首が胴体から分断された。



 ニナ。
 傾いだ視界が静止し色を失う。女性の声が聞こえる。
 あなたの名前はニナね。



「ニナ!」
 転がる頭、響く雑音混じりの声。
「意識が戻ったな? 首を拾うぞ。とにかくここを離れるんじゃ!」
 導かれるように両手が頭を抱える。半開きの口からガスを垂れ流す。ぞっ、とさっきまで立っていた場所を光が貫通する。
 ガスを構成する微粒子機械が振動し、粉塵を巻き上げ、光が拡散する。殺傷力は低下したが、それでも焼かれた機械がきらきらと輝いた。
「射出点を特定。完全掌握はできんが照準は破壊した。退くぞ」
「嫌よ」
 ニナは外れたままの頭で吐き捨て、狙撃手に向かって跳躍した。

#逆噴射小説大賞2020 #小説 #SF #冒頭

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