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「ちょっとこれ見てよ」
 渡された通販の冊子。本が特集されているらしく、いくつもの表紙が並んでいる。
「ここ。『半飼いの少年』ってなに? こんな誤字する?」
「手書き原稿をスキャンして自動変換してるんじゃない? 校正するようなものでもないし」
 言いながら私は半飼いの少年について考え始めている。



 半飼いの少年の朝は早い。まだ暗いうちから目を覚まして着替えると、まっすぐ半小屋へ向かう。半たちはもう起きていて、少年を見つめてふーと鳴いたりぶるぶるっと体を震わせたりする。
 半の体は頭から首、背と腹、尻尾まで、縦に真っ二つに割れており、雄は右半分、雌は左半分が見えない。見えないだけでそこにあり、触れれば確かにしっとりとした毛の感触がある。
 少年は半たちに餌をやり、一頭一頭を撫でて体調を確認し、半小屋を掃除する。今日は晴れだ。日中は半たちを牧場に放し、自由に歩かせる。そうすることで肉が引き締まり、ストレスも少なく味がよくなるらしい。

 少年の父親は月に一度トラックに半を乗せて街へ出かける。競りに出すのだ。少年はまだ連れて行ってもらったことがない。父親は出かける日の朝はピリピリしているが、帰ってくるとたいてい機嫌がよく、土産に本を買ってきてくれたりもする。
 母親はいない。「母さんは、お前が物心つく前に流行り病で亡くなった」と父親は言った。村のはずれに墓があり、命日には花を供える。
 少年は最近、同じ夢を何度も見るようになった。ひとりの女性が椅子に腰かけてこちらを見ている。だが、その女性のからだは半分しかないのだ。

 半の肉は不可視の部位のほうが美味だという。不可視の肉は調理にも技術が求められるため、高級珍味として高値で取り引きされる。
 少年はそのことを知ったとき、自分で育てた半を食べてみたいような気がしたが、すぐにそれが何か恐ろしいことのように思えてぶんぶんと首を振った。
 今日も半たちは元気だ。

(Photo by Thijs Kennis on Unsplash)

#小説 #掌編 #日記 #半飼いの少年

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