デジタルを活用したホスピタリティ|アフターデジタル2
積ん読になっていたbeBit藤井保文著「アフターデジタル2」をようやく読んだ。本日2021年2月14日時点で、Amazonにて400を超えるレビューがついており、人気の絶大さが伺える。
概要としては、アリババ、テンセントをはじめとした中国企業の豊富なDX事例や著者の中国での体験をもとに、DXに必要なケイパビリティやDX推進の考え方が述べられている。また、事例のみならず、「具体的な社内説得の仕方」などに代表されるような実務的・実践的な内容も多く含まれており、次のアクションにつなげるヒントが充実している。このあたりが、多くの読者に刺さった要因だと思われる。
特に、ユーザーの状況を深く理解し、ペインポイントを解決するUX(体験)を構築する、それによって得られたデータを基によりユーザーを深く理解する、といったサイクルを繰り返すことが重要である、というのが繰り返し主張されていたように思う。このことは、同著にも記載があったが、クレイトン・M・クリステンセン他著「ジョブ理論」の内容と非常に整合しており、
UX、バリュージャーニーといった消費者への体験としての価値提供を考えることが、DXを実現するための最重要なポイントといえる。
個人的に考える日本の現状と処方箋
本書第5章に「日本企業への処方箋」が書かれているが、ここでは私個人として日本におけるDXについて考えるところをまとめておきたい。
この利用者の状況を深く理解するということ自体は、日本では「おもてなし」という形で、ホテルや旅館のような場では積極的に考えられてきたことであろうし、優秀な営業マン、看護師などは、そのあたりのスキルが突出している方も多いはずだ。しかしながら、このユーザーの状況に対して、リアルだけでなく、オンライン(それに必要なデジタル技術を含む)を組み合わせた体験としてサービスをオーガナイズする領域では、日本はまだまだ不得手であり、良い事例が生まれていないのが現状である。
このいわば「デジタルを活用したホスピタリティ」という領域においては、前述したようなユーザーの状況が詳細に想像できる人と、必要な体験(プロダクトないしはサービス含む)を企画できる人、それらを実現するテクノロジー候補やアーキテクチャが分かる人、といった人たちが三位一体となって体験を作り上げていく必要がある。
日本の場合、日本企業全体が米国・中国の後塵を拝しており、そもそもこのデジタルを含む一連の体験全体を設計した経験がある人はほとんどいない。また、ユーザー企業側にはAIや統計分析などの先端技術が分かる、適用できる人がほとんどおらず、実現可能性がわからない状態での設計をはじめるか、あるいは、ともかく作ってみるといった試行錯誤が実行できない。
一方で、IT企業やSIerには技術はわかる人材は一定数いる一方で、ユーザーの状況を詳細に想像できる人はほとんどいない。同時に、業務知識やその他アセットが不足して単体のIT企業では体験構築は極めて難しく、情報技術のみではたかだかオンライン体験のみが関の山で、オフラインと組み合わせた上質な体験には程遠い。
このような構造的な問題から、日本企業ではいわゆる良質なDXの事例がでてくるまでには、まだまだ時間がかかると想像できる。おそらく、現在、日本企業でDXという名の下に実行できているのは、IT、データ、AIを活用して業務効率化する、といった部分までであろう。
この先、そのような効率化業務によって、先端技術に関する信頼性を獲得した企業が、ようやくユーザー企業と一体となって本来の意味でのDXをしかけるフェーズになっていくと思われる。2020年、新型コロナウイルスの影響で、日本企業において、かつてないほどデジタル技術活用への敷居が下がり、同時におおよそウイルスとの戦い方がおおよそ見えてきた。2021年は、日本のDXを進める上で、非常に重要な年になりそうだ。