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わたしの部屋だった場所で
大学の後輩ちゃんが有言実行で
わたしのいた部屋を探して住みだした
ちょうど一年前くらい、そう、“来年の春わたしはここにいない”を書いた時だ。
「さのゆさんの部屋に住みたい!」と興奮気味に話していた後輩ちゃんは、本当にわたしのいた部屋を借りていた。
今日は卒業式。だから前日に戻ってきて、後輩ちゃんの部屋に泊まった。
「わたしも外で飲んでくるので、帰ったら先に入っててください」と渡された鍵は、もうわたしの知っていた形ではなくて、後輩ちゃんの部屋になったことを1番象徴していた。
同期との食事後、少しだけ寂しく、どことなく楽しみな気持ちで、わたしのいた部屋に帰る。
わたしがいたときは鍵の差し込みが偏屈だったのに、やっぱり新しくなっていた。
ドアを開けると、涙腺に訴えかけてくる懐かしい香りと、わたしの全く知らないヒトの香りが鼻を抜けた。
もうわたしの部屋じゃない
わたしの時より多い家具、わたしの時より明るい照明、わたしの時より濃い部屋の匂い、わたしの時より……
比べる理由なんてない、ここはもう後輩ちゃんの家。わかってる。そんなこと。わかってはいるけど、ここはわたしの部屋だったんだよ。
友人の家が居心地よく感じて羨んだこともあった。わたしの部屋に戻らず長く空けることだってあった。
好きだった、本当に大好きだった。4年間の思い出のどこを振り返ってもわたしの部屋はここで。友人らを招いてご飯を食べたり、気分がすごく落ち込んで大学をずる休みしたり……
わたしの4年間の安心を、ほっと寛げる空間を、ここはいつだって提供してくれた。
後輩ちゃんのいない部屋、わたしの部屋だった場所。「ただいま」と出かかった言葉をグッと堪えて、「お邪魔します」と言った。
もう本当にヒトの家。わたしのわたしだけの場所じゃない。
いつだってわたしの「ただいま」を待っていてくれた場所。本当にありがとう。わたしはここが大好きだったよ。
そう思いながら、少しだけ泣いた卒業式の前夜だった。